2017年8月25日金曜日

8月15日付医薬品承認情報~イルベサルタン 後編~

 今回は“イルベサルタンの参入企業は多い?少ない?”について分析します。

イルベサルタンの参入企業数は多い?少ない?


 イルベサルタンの承認取得企業数と過去のARBの承認取得企業数を比較したところ、以下のような結果となりました。













他のARBと比較して、承認取得企業数が少ないことがわかります。

 
また、イルベサルタンと同日に承認されたファムシクロビルと比較した場合、イルベサルタンの市場規模がファムシクロビルの倍にもかかわらず、AGを除いた承認取得企業数はどちらも10社です。
 したがって、イルベサルタンは市場規模に対し、参入企業数が少ないと言えます。

イルベサルタンの参入企業数が少ない理由は? 


 次にイルベサルタンの参入企業が少なかった理由を検証してみたいと思います。
 まず、次の2つの仮説を立てました。

 仮説1:市場規模が小さい
 仮説2:製剤開発の技術的難易度が高い


仮説1


 イルベサルタン単剤の先発品には大日本住友製薬の販売するアバプロ錠と塩野義製薬の販売するイルベタン錠の二種類があり、Web上で検索した限り、両製品の合計で100億~200億程度の市場規模があると思われます。これに対し、ロサルタン、バルサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、オルメサルタンの市場規模は、ロサルタンが400億程度バルサルタンが900億程度テルミサルタンが700億程度オルメサルタンが800億程度であったので、イルベサルタン市場規模は他のARBのそれと比較してとても小さい(半分以下)です。
 したがって、イルベサルタンの市場規模が小さいことが、参入企業が少なかった要因の一つであると考えられます。
 しかし、100億を超えるイルベサルタンは、ジェネリック医薬品メーカーには十分に魅力的な製品であったはずです。AGを除いた参入企業が10社というのは、少なすぎますし、更に市場規模の小さいファムシクロビルと参入企業数が同じであることは、仮説1だけでは説明がつきません。他に何らかの要因があると考えられます。

仮説2


 製剤開発の技術的難易度を特許の視点から評価してみます。
 特許出願がされるということは、解決するべき課題が存在するということですので、出願件数が多いほど解決すべき課題が多い、すなわち技術的難易度が高いと推測されます。そこで、[発明の名称+要約+クレーム=成分名]×[テーマコード=4C076(医薬品製剤)]×[出願日=承認年-25年]という検索式でヒットした特許出願の件数により、製剤開発の技術的難易度を評価してみました。























 イルベサルタンの出願件数は、他と比較して顕著に多いということはなく、仮説2でも参入企業の少なさを説明できません。

他の仮説はないか?


 他に仮説を立てられないか検討するため、公開されている各社の製品情報を比較してみたところ、興味深い特徴が見つかりました。
 各社の行った生物学的同等性試験(BE試験)を確認したところ、第一三共エスファと共創未来ファーマ以外の製品は、100mg錠と200mg錠の両方でBE試験が行われていました。先発品に3規格ある場合、1規格でBE試験を行い、その他の2規格はBE試験を行わないことがあります。例えば、テルミサルタンでは、第一三共エスファのAGを除く22社中、7社が80mgのみで、15社が40mgと80mgとでBE試験を行っています。
そうすると、「イルベサルタンでは、200mgのみでBE試験を行うことが何らかの理由で認められず、200mgでのみBE試験を行っていなかった会社は追加の試験を実施しなければならず、申請・承認が遅れた。その結果、参入企業数が少なくなった」という仮説3が立てられます。
今のところ、仮説3を検証する方法は思い当たりませんが、2018年に追加でイルベサルタンのジェネリック医薬品が承認されれば、仮説3の検証につながるかもしれません。

 次回はファムシクロビルについて分析します。

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