2017年9月14日木曜日

8月15日付医薬品承認情報 ~トラボプロスト点眼液~

 今回はサンドが承認を取得したトラボプロスト点眼液について分析します。


トラボプロスト点眼液の先発品情報


有効成分
一般名:トラボプロスト
効能・効果
緑内障、高眼圧症
剤形・規格
トラバタンズ点眼液0.004%(2007年9月薬価収載)
製造販売元
ノバルティスファーマ(販売提携 アルコン ファーマ)



トラボプロスト点眼液の基本特許


 トラボプロスト点眼液の基本特許は以下の通り。








 トラボプロスト点眼液の基本特許(物質特許及び用途特許)は、2014年に満了し、再審査期間も2015年7月に終了しています。早ければ、2015年8月申請~2016年8月承認~12月薬価収載というタイムラインも可能と思われますが、2017年8月に初承認にとなっています。
 トラボプロスト/チモロール マレイン酸配合点眼液(先発名:デュオトラバ配合点眼液)のジェネリックは、用途特許が2018年8月12日に満了するため、2017年8月申請~2018年8月承認となると考えられます。



トラボプロスト点眼液はAG?


 今回、承認されたのはサンドのトラボプロスト点眼液のみでした。サンドとノバルティスからプレスリリース等は出されていませんが、サンドはノバルティスのグループ会社ですからオーソライズド・ジェネリック(AG)であると考えられます。



なぜ今、AGなのか?


 再審査期間と基本特許からは、早ければ2016年8月にトラボプロスト点眼液のAGの承認を取得できたと考えられます。残念ながら、なぜサンドがこの8月にAGの承認を取得したかを分析することはできませんでした
考えられる理由としては、

  1. AGに積極的に参入するという企業方針になった、
  2. 何らかの方法でジェネリックが開発されているという動きを察知し(例えば、MF登録された、ジェネリックメーカーが生物学的同等性試験に使用する先発品が購入された等)、対抗してAGの承認と取得した
などが考えられるかと思います。



AGの12月収載あるのか?


 再審査期間が2016年4月15日に終了したため、AGは、2016年8月申請~2017年8月承認となったと考えられます。一方、「8月15日付医薬品承認情報 ~モメタゾン点鼻液 後編~」で分析しましたが、過去、新薬創出加算の適用を失ってまでAGを投入した製品はありませんでした。また、ノバルティスは既にいくつかAGを発売していますが、今のところ、通常のジェネリックに先行してAGを発売した前例はありません

AG承認AG収載GE承認GE収載トリガー
オクトレオチド酢酸塩皮下注2010-012016-122016-022016-06
バルサルタン錠2013-082014-062014-022014-06特許
ゾレドロン酸点滴静注2014-022014-062014-022014-06再審査
アムバロ配合錠2015-082015-122015-082015-12特許
バルヒディオ配合錠2016-022016-062016-082016-12特許
エカレボ配合錠2017-08
トラボプロスト点眼液2017-08

そのため、2017年12月にAGを薬価収載することはないのではないでしょうか。
AGの今後の動向に注目したいと思います。



AG以外のジェネリックの承認はいつ?

点眼剤のジェネリックのハードル


 点眼剤のジェネリックの場合、錠剤とは異なるハードルがあります。
 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のHPに「水性点眼剤の後発医薬品の生物学的同等性評価に関する基本的考え方」というものが掲載されています。
これによると、
“点眼剤の生物学的同等性評価に係る試験では、標準製剤と試験製剤につき、ヒトを対象とした適切な被験者集団における薬理効果又は臨床効果を指標とした試験を実施する。なお、試験の実施方法等については、適宜、審査当局と事前に相談し、適切な試験を計画し、実施することが望ましい。”

“試験製剤の添加剤の種類及び含量(濃度)が、医薬品の製剤特性に及ぼす影響を考慮して標準製剤と同一で、pH、粘度、浸透圧などの物理化学的性質が近似していると見なせる場合には、生物学的同等性試験は原則として不要である。”
とされています。
つまり、製剤特許等によって先発製剤と同じ添加剤を使用できないような事情があり先発品と異なる添加剤をジェネリックが使用すると、錠剤のように健常成人男性を被験者として薬剤の血中動態を見ることだけでは足りず、効果を見る臨床試験に近い試験が課されることになるわけです。


トラボプロスト点眼液の製剤特許


 トラボプロスト点眼液の製剤特許にフォーカスし、先発品と関連しそうな特許を調べたところ、2027年9月に満了する次の3件が発見されました。

特許番号発明の名称特許権者満了日請求項1
特許4785970自己保存型水性医薬組成物アルコン9/20/20270.04乃至0.4mMの濃度で亜鉛イオンを含み、組成物中に存在するアニオン種の濃度は15mM未満である、複数回用量の自己保存型眼科用組成物。
特許5411897自己保存型水性医薬組成物アルコン9/20/2027複数回用量自己保存型眼科用組成物であって、
該組成物中に0.001~0.005w/v%の濃度で塩化亜鉛の形態で提供される亜鉛イオンと;
0.5~1.2w/v%の濃度のホウ酸塩と;
0.25~1.25w/v%の濃度のプロピレングリコールと;
0.05~0.5w/v%の濃度のソルビトールと;
0.5w/v%の濃度のポリオキシル40硬化ヒマシ油と;
を含有し、ここで:
(i)該組成物中のアニオン種の濃度は10mM未満であり;
(ii)該組成物中の多価緩衝アニオンの濃度は5mM未満であり;
(iii)該組成物中の亜鉛以外の多価金属カチオンの濃度は5mM未満であり;
(iv)該組成物は、該組成物がUSP27保存効力要件を満たすに十分な抗菌活性を示し;そして
(v)該組成物は5.5~5.9のpHを有する、
組成物。
特許5394927自己保存性水性医薬品組成物アルコン9/20/2027マルチドーズ型点眼用組成物であって、前記組成物が、
ベータ-遮断薬、カルボニック・アンヒドラーゼ阻害剤、プロスタグランジン類似体、神経保護薬、抗血管新生薬、キノロン類、抗炎症薬、増殖因子、免疫抑制剤、および抗アレルギー薬からなる群から選択される、治療有効量の点眼用治療薬;ならびに
i.0.3~1.5w/v%の該組成物中の濃度のホウ酸塩であって、ここで、該ホウ酸塩が1種以上のホウ酸塩を含む、ホウ酸塩;
ii.0.6~2.0w/v%の該組成物中の濃度のポリオールであって、ここで、該ポリオールがソルビトールおよびプロピレングリコールを含む、ポリオール;および
iii.0.00075~0.0025w/v%の該組成物中の濃度において塩化亜鉛により提供される亜鉛イオンを含む防腐系
を含み、
ここで、該防腐系は、充分な抗菌活性を有して該組成物がUSP26防腐効果の要件を満たすことを可能にし、そしてここで、該組成物はアミノアルコールを含まず、そして該組成物は、塩化ベンザルコニウム、ポリクオタニウム-1および過酸化水素から選択される防腐剤を含まない、
組成物。


先発品(トラバタンズ点眼液)との対比


 先発品であるトラバタンズ点眼液の組成と各特許の請求項と実施例との組成を比較したところ、それぞれの組成に相同性が確認できました。特に、特許4785970・特許5411897の実施例の組成がトラバタンズ点眼液の組成と酷似しています。


特許番号請求項の組成実施例の組成トラバタンズ点眼液の組成
特許4785970ポリオキシル40硬化ヒマシ油
塩化亜鉛
ホウ酸
ソルビトール
プロピレングリコール
ポリオキシル40硬化ヒマシ油
塩化亜鉛
ホウ酸
ソルビトール
プロピレングリコール
水酸化ナトリウム/塩酸
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40
塩化亜鉛
ホウ酸
D-ソルビトール
プロピレングリコール
pH調節剤2成分
特許5411897ポリオキシル40硬化ヒマシ油
塩化亜鉛
ホウ酸
ソルビトール
プロピレングリコール
ポリオキシル40硬化ヒマシ油
塩化亜鉛
ホウ酸
ソルビトール
プロピレングリコール
水酸化ナトリウム/塩酸
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40
プロピレングリコール
ホウ酸
D-ソルビトール
塩化亜鉛
pH調節剤2成分
特許5394927塩化亜鉛
ホウ酸
ソルビトール
プロピレングリコール
デキストラン70
HPMC
プロピレングリコール
ホウ酸
ソルビトール
塩化ナトリウム
塩化カリウム
塩化カルシウム
塩化マグネシウム
塩化亜鉛
AMP
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40
プロピレングリコール
ホウ酸
D-ソルビトール
塩化亜鉛
pH調節剤2成分

 各特許がトラバタンズ点眼液を保護しているか結論を出すためには、トラバタンズ点眼液を分析し、各添加剤の配合量を特定する必要はあるものの、この3件の特許とトラバタンズ点眼液の関連が強く疑われます。そのため、これら3件の特許は、ジェネリックの開発の障害となり得ると思われます。



AG以外のジェネリックの承認はいつ?


 医薬品医療機器号機構のHPでMF登録状況を確認したところ、次のMF登録がされていました。

MF登録番号初回登録年月日最新登録年月日登録品目名登録者名
227MF101532015年6月1日2017年2月28日トラボプロストCayman Pharma s.r.o.
227MF101362015年5月12日2017年1月13日トラボプロストCHINOIN Pharmaceutical and Chemical Works Private Co.Ltd.
227MF101952015年8月3日2015年8月3日トラボプロスト「製造専用」Yonsung Fine Chemicals Co.,Ltd.

残念ながら、いつAG以外のジェネリックが製造販売承認申請されるかを分析することはできませんでしたが、最新登録が2017年1月・2月のMFがあることから、トラボプロスト点眼液を開発している気配がうかがえますので、AG以外のジェネリックは、早ければ2018年2月には承認されると思われます。
 先発品と同じ添加剤が使用できない場合、ジェネリックにも効果を見る臨床試験に近い試験が課されますので、2018年2月以降に承認されるであろうAG以外のジェネリックがどのような添加剤を使用し、どのような試験を行っているかが注目です。


次回はドルゾラミド/チモロール配合点眼液(ドルモロール)について分析します。

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