2017年9月5日火曜日

炭酸ランタン

 炭酸ランタンに係る特許3224544の無効審判事件(審判番号:2016-800111)の審決が下りましたので、予定を変更して、炭酸ランタンについて分析してみたいと思います。

炭酸ランタンの製品情報

有効成分
一般名:炭酸ランタン水和物
分子式:La2(CO33・xH2O(x=主として 4 )
効能・効果
承認時:下記患者における高リン血症の改善 ・透析中の慢性腎不全患者
2018年8月 効能追加:下記患者における高リン血症の改善・保存期の慢性腎臓病患者"
→"慢性腎臓病患者における高リン血症の改善"に統一
剤形・規格
ホスレノールチュアブル錠250mg・500mg(2008年12月薬価収載)
ホスレノール顆粒分包250mg・500mg(2012年5月薬価収載)
ホスレノールOD錠250mg・500mg(2017年6月薬価収載)
製造販売元
バイエル薬品


炭酸ランタンの基本特許


基本特許












特許3224544の内容

❝【請求項1】
高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物であって、以下の式:La2(CO33・xH2O{式中、xは、3~6の値をもつ。}により表される炭酸ランタンを、医薬として許容される希釈剤又は担体と混合されて又は会合されて含む前記組成物。❞

 ホスレノールの有効成分は、炭酸ランタン4水和物ですので、特許3224544はホスレノールを保護していると考えられます。


無効審判事件(審判番号:2016-800111)

無効審判請求人:沢井製薬
事件の経過:2016年9月審判請求→2017年6月口頭審理→7月審理終結通知→8月審決
無効理由:
1.サポート要件違反(特許法36条6項1号)
2.実施可能要件違反(特許法36条4項)
3.進歩性(特許法29条2項)
結果:無効理由1~3よって特許3224544を無効とすることはできない


沢井製薬が無効審判を請求した狙いは?

 
 無効審判の請求時期から判断すると、再審査が終了後の2017年2月申請~2018年2月承認を狙っていたと考えられます。また、先発製剤と同様に炭酸ランタン4水和物を使用したジェネリックを開発しようとしていたと考えられます。
 特許3224544が無効とできなかったことにより、沢井製薬が炭酸ランタンのジェネリックの承認を2018年2月に取得し、6月の薬価収載に踏み切った場合、特許係争に発展する可能性がでてきました。沢井製薬がどのような水和物を使用ているか、2018年6月の薬価収載に踏み切るかが注目されます


ジェネリックはいつ承認される?


ジェネリックの承認時期

 炭酸ランタンのジェネリックの承認~薬価収載時期は、2016年10月15日の再審査期間終了後の2017年2月申請~2018年2月承認~6月収載と考えられます。

特許3224544は回避可能か?

 薬食審査発0616第1号によれば、❝結晶形又は水和物/無水物の違いは、塩違い(酸塩又は金属塩)又はエステル違いの場合と異なり、化学構造の基本的相違を伴わないことから、一般的名称が異なる場合にあっても、承認申請(審査)にあたっては、原則として、次のとおり取扱うものとする。既承認医薬品の原薬と結晶形等が異なる原薬から成る製剤を新規に承認申請する場合 には、既承認医薬品と同一の有効成分から成る製剤を申請する場合と同様に取扱うこととする。❞とされていますので、ジェネリックは先発品と異なる水和物・結晶形の原薬を使用できると読むことができます。
 したがって、炭酸ランタン3~6水和物以外水和物、例えば、8水和物を使用すれば、ジェネリックは特許3224544の影響を回避できます。


MF登録

 医薬品医療機器号機構(PMDA)のHPでMF登録状況を確認したところ、2016年12月から2017年4月にかけて以下のMF登録がされていました。

 





















炭酸ランタン8水和物のMF登録もされていますので、ジェネリックメーカーは、特許3224544の影響を回避した原薬の調達ができると考えられます。


特許出願しているジェネリックメーカー

 特許情報プラットフォーム(J-Plat-Pat)の特許・実用新案テキスト検索を用いて、ジェネリックに関連すると考えられる出願を検索したところ、以下のような出願がヒットしてきました(検索式: [発明の名称+要約+クレーム=炭酸ランタン])。

出願番号発明の名称公報番号出願人(最新)記載されている水和物
特願2016-551468粒度調整された炭酸ランタン水和物からなる医薬特再公表2016-51609東和薬品7~9水和物
特願2015-257372炭酸ランタンを含む口腔内崩壊錠特開2017-119655ニプロ8水和物
特願2015-25430炭酸ランタン水和物を含有する医薬製剤特開2016-147827三和化学研究所8~9水和物
特願2011-546449炭酸ランタンの崩壊製剤特表2012-515723
特許5643227
マイラン8水和物

 これらの特許出願をしている企業は、炭酸ランタンのジェネリックを開発している、又は開発していたと考えられます。

 MFの登録状況と特許出願の状況から、再審査が終了後の2017年2月申請をターゲットにしてしているジェネリックメーカーがあると考えられます。



特許係争の可能性

特許3224544

 無効審判を請求している沢井製薬は、4水和物を使用しているとも思われますので、沢井製薬が2018年2月に承認を取得し、6月の薬価収載に踏み切った場合、特許係争に発展する可能性が考えられます。

特許6093829

 先発メーカー(バイエル薬品)によって出願されていた特許が、2017年2月に新たに登録されました(特許6093829)。
 特許6093829の内容は、
❝【請求項1】
  唾液又は少量の水により、口腔内で崩壊させて経口投与することを特徴とする、崩壊剤及び医薬組成物中の含有率が70~90質量%で炭酸ランタン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物。❞
です。
 2017年6月に薬価収載された先発品の新剤形であるOD錠は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースやクロスポビドンといった崩壊剤を含み、炭酸ランタン水和物の含有率が約79%ですから、先発のホスレノールOD錠をカバーしています。炭酸ランタンOD錠を開発しているジェネリックメーカーにとっては、炭酸ランタンの含有率を70%未満にするか90%より大きくするしかなく、ジェネリックの開発・販売の障害となり得ます。
また、特許6093829は2015年10月に出願され、早期審査により、公開公報が発行される前に登録され、2017年3月に登録公報が発行されました。ジェネリックの製造販売承認申請後に発見される特許ですから、結果的に特許6093829に係る発明の技術的範囲に含まれるようなOD錠を開発・申請してしまった会社もあるかもしれません。

特許6093829に対する無効審判

 特許情報プラットフォームで確認したところ、2017年8月に特許6093829に対する無効審判(審判番号2017-800104)が請求されていました。炭酸ランタンOD錠を開発しているジェネリックいるいずれかの企業が無効審判を請求したと思われます。
例えば、ニプロの特願2015-257372は、OD錠に関する出願で、その明細書には崩壊剤を含み、炭酸ランタンの含有率が80%台のものが開示されています。審判請求したのはニプロという可能性もあります。また、ODに技術的な強みを有する東和薬品や特許3224544に無効審判を請求している沢井製薬をいう可能性も考えられます。

特許3224544・特許6093829の無効審判とジェネリックメーカー動向に注目していきたいと思います。

※更新

特許6093829に対する無効審判(審判番号2017-800104)の請求人は、コーアイセイ株式会社でした。別途、審判請求する会社や参加する会社があるかもしれません。引き続き、ウォッチしていきます。



1 件のコメント:

  1. 特許6093829に対する無効審判の請求人は、コーアイセイ株式会社でした

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