1.フェブキソスタットの製品情報
一般名: フェブキソスタット
効能・効果
1.痛風、高尿酸血症
2.がん化学療法に伴う高尿酸血症
剤形・規格
フェブリク錠10mg /20mg/40mg (2011年3月薬価収載)
製造販売元
帝人ファーマ
2.フェブキソスタットの基本特許
2-1.基本特許
特許 2706037はフェブキソスタットの物質特許、特許2725886は痛風/高尿酸血症の医薬用途特許、特許5907396は腫瘍融解症候群の治療薬/予防の医薬用途特許です。
フェブキソスタットの物質特許と痛風/高尿酸血症の医薬用途特許が既に満了し痛風/高尿酸血症の再審査期間が2019年1月20日に終了することから、フェブキソスタットのジェネリックは、2019年2月申請~2020年2月承認~2020年6月薬価収載と考えられます。
2-2.その他の関連特許
基本特許以外に先発製剤を保護するような特許がないか調べたところ、次のような特許が見つかりました。
特許 3547707は結晶特許、特許4084309は製剤特許、特許3202607と特許2834971は製剤特許で、いずれも先発製品の製造販売承認に基づく存続期間の延長登録がされていることから、先発製品を保護すると推測されます。
3.無効審判事件(審判番号:2016-800037)
無効審判(審判番号:2016-800037)の請求人は日本ケミファで、対象特許は結晶特許である特許 3547707です。特許庁は、特許 3547707の請求項のち、一部を無効と判断し、現在、審決取取消訴訟が知的財産高等裁判所に係属しています。
各請求項の内容と無効審判の結果を下の表にまとめてみました。
結晶A、結晶C、結晶G及びこれら結晶の製法に関する請求項に対して無効審判が請求され、結晶A、結晶C、結晶G及び結晶Cの製法が無効と判断されました。
4.日本ケミファが無効審判を請求した狙い
4-1.仮説
結晶A、結晶C、結晶Gに関する請求項に対して無効審判を請求していることから、日本ケミファは、いずれかの結晶を使用したジェネリックを開発していると考えられます。そこで、次の3つの仮説を立て、検証していきたいと思います。
仮説①:結晶Aを使用したジェネリックを2020年6月に発売
仮説②:結晶Cを使用したジェネリックを2020年6月に発売
仮説③:結晶Gを使用したジェネリックを2020年6月に発売
4-2.仮説の検証
4-2-1.先発製品の結晶形は?
結晶特許(特許 3547707)は、存続期間の延長登録がされているため、先発製品に含まれるフェブキソスタットは、結晶A、B、C、D、G又は非晶質のいずれかと考えられます。例えば、結晶特許(特許 3547707)の請求項1は、次のような内容です。
“【請求項1】
反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。”
ここで、同様に存続期間の延長登録がされている製剤特許(特許4084309)の請求項を見てみます。
“【請求項1】
反射角度2θで表して6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、及び36.70°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のA晶、賦形剤、結合剤、及び崩壊剤を含有する、痛風または高尿酸血症治療用の錠剤であって、
該A晶の平均粒子径が12.9μm以上26.2μm以下であり、
該賦形剤が、乳糖、および部分アルファー化デンプンから選ばれる1種以上であり、
該結合剤が、ヒドロキシプロピルセルロースである錠剤。”
結晶特許(特許 3547707)と製剤特許(特許4084309)の請求項1を比較してみると、どちらも同じ粉末X線回折パターンを持つ結晶形(A結晶)を含んでいることが分かります。
製剤特許(特許4084309)の独立請求項は請求項1のみで、結晶A以外の結晶形は記載されていないため、先発製品に含まれるフェブキソスタットは結晶Aであると考えられます。
4-2-2.特許3547707と特許4084309から分かること
特許3547707と特許4084309の明細書を確認したところ、結晶A、B、C、D、Gと非晶質について、次のようなことが分かりました。
4-2-3.結晶Aを採用した理由
特許3547707と特許4084309の明細書から、結晶Aは他の結晶形よりも製剤中で安定であり、溶出性もいいことが分かります。そのため、先発製品は結晶Aを採用したと推測されます。
4-2-4.日本ケミファの特許出願
特許出願から日本ケミファが使用しようとしている結晶形を推測できないか試みるために、日本ケミファの出願を検索したところ、次の3件の特許出願がヒットしてきました。これらの特許出願の内容を確認したころ、いずれも結晶Cに関する出願でした。
また、各出願と特許3547707に対する無効審判を時系列に並べてみると、無効審判請求前後で一貫して結晶Cに関する出願をしていることが分かります。
これらから日本ケミファは結晶Cを使用としようとしていることがうかがえます。
4-2-5.日本ケミファの特許出願から分かること
日本ケミファの特許出願の明細書を確認し、各出願の主な発明とそれらの効果をまとめてみました。
これらから日本ケミファは高純度で小型化された結晶Cを使用することで、高い溶出性・安定性を有するフェブキソスタット製剤を開発しようと試みていることがうかがえます。
4-2-6.仮説①の検証
結晶形は、製剤の安定性や溶出性に影響を与えるので、先発製品と同じ結晶を使用するために無効審判を請求するということはあり得ます。
ですが、日本ケミファの特許出願は結晶Cの使用を示唆しているという点で一致していません。また、結晶Aを含む製剤に関する製剤特許(特許4084309)に対しては、無効審判を請求しておらず、結晶Aに関する特許出願がないことも不自然です。
4-2-7.仮説②の検証
日本ケミファの特許出願は結晶Cの使用を示唆しているため、仮説②は有力な説のように見えます。
ですが、結晶を使用したいのであれば、C結晶に関する請求項のみに無効審判を請求すればいいはずです。わざわざA結晶とG結晶に関する請求項にも無効審判を請求する必要はありません。
更に、先発製品は結晶Aを使用し、先発製品の製造販売承認に基づき、結晶特許(特許 3547707)の存続期間が、2019/6/18から2024/6/18まで延長されています。そうすると、フェブキソスタットの結晶Aでの製造販売承認を理由として延長された特許権の効力は、結晶Cには及ばないと考えるのが自然です。つまり、結晶Cを使用するため、無効審判を請求する必要はないわけです。
4-2-8.仮説③の検証
製剤特許(特許4084309)では、結晶Gの製剤は製剤の均一性が悪かったとされていますので、結晶Aや結晶Cを使用しようとするのが自然です。また、仮説②の検証と同様に、結晶Gを使用するため、無効審判を請求する必要はありません。
4-3.新たな仮説
仮説①②③のいずれでもクリアーな説明ができず、疑問が残ります。そこで、新たな仮説を立ててみます。
仮説④:
結晶Cを使用してジェネリックを開発しているが、製造中/保存中の結晶転移により、結晶Aが混入し、結晶特許(特許 3547707)に基づく権利行使のリスクがある
仮説⑤:
とりあえず安定な結晶A、C、Gに無効審判をし、結果次第で使用する結晶形を選択する
仮説④と⑤であれば、仮説①~③よりも日本ケミファの無効審判と特許出願との関係を自然に説明できるのではないでしょうか。
5.最後に
今回は、仮説①~⑤を立て、日本ケミファの無効審判の狙いを分析してみました。今後、日本ケミファがジェネリックを発売し、侵害訴訟に発展すれば、実際に日本ケミファが使用した結晶形等が判明してくると思います。今後の動向に注目していきたいと思います。
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