2018年6月15日金曜日

2018年6月 薬価基準追補収載

 久しぶりのブログ更新です(引越し等々で忙しくしていたので、なかなかブログが更新できず、申し訳ありません・・・)。

 さて、6月14日に後発医薬品等の薬価基準追補収載が官報告示され、6月15日に薬価基準収載がされました(官報は”インターネット版官報”から確認できます)。
 そこで、今回、薬価基準収載がされたジェネリック医薬品のうち、特許的に注目される①イルアミク、②炭酸ランタン、③ナルフラフィンについて、分析していきたいと思います。




イルアミクス




競合関係


 今回、15社30品目が薬価収載されました。今年の2月に20社42品目が承認されていましたが、東和薬品(OD)/メディサ新薬/共和薬品/鶴原製薬/第一三共エスファ/ニプロが薬価収載を見送り、競合関係は以下のような状況です。




















薬価収の載見送り


 薬価収載が見送られたのは、イルアミクス配合OD錠LD/HD「トーワ」、イルアミクス配合錠LD/HD「MED」、イルアミクス配合錠LD/HD「アメル」、イルアミクス配合錠LD/LD「ツルハラ」、イルアミクス配合錠LD/HD「DSEP」、イルアミクス配合錠LD/HD「ニプロ」です。
 第一三共エスファは、薬価収載を見送った理由を、“光安定性試験において、開封後の製剤が光に不安定であることが判明したため”とHP上で発表しており、第一三共エスファの共同開発元であるニプロも同じ理由で薬価収載を見送ったと推測されます。
 残り4社が薬価収載を見送った理由は不明ですが、少なくとも東和薬品とメディサ新薬は、沢井製薬が無効審判を請求している特許6041591との関連が疑われます


注目ポイント~沢井製薬~


 薬価収載された15社30品目の中で、特許的に注目したいのが、沢井製薬のイルアミクス配合錠LD/HD「サワイ」です。理由は、沢井製薬は日本住友製薬が保有する製剤に関する特許6041591に対して無効審判(2017-800067)を請求しているからです。

 沢井製薬が無効審判を請求している特許6041591の内容は、
”【請求項1】
イルベサルタン、アムロジピンまたはその塩、
D-マンニトール及び結晶セルロースである賦形剤、及び
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、アルファ化澱粉およびコポリビドンから選択される結合剤を含有する、安定化された医薬組成物。”
です。

 一方、イルアミクス配合錠LD/HD「サワイ」は、D-マンニトール/結晶セルロース/ヒプロメロース/ヒドロキシプロピルセルロースを含むため、特許6041591との関連が強く疑われます。

 また、特許6041591の無効審判の状況ですが、昨月、審理終結通知が出されていますので、特許庁は沢井製薬の請求を認めず、特許6041591を維持すると考えられます。
 
 そうすると、本当に沢井製薬のイルアミクス配合錠LD/HD「サワイ」が特許6041591の範囲に含まれている場合、大日本住友製薬は沢井製薬に対し、特許権侵害訴訟の提起/仮処分命令の申立てを行うのではないでしょうか?
 今後、沢井製薬と大日本住友製薬の双方が、どのようなアクションを取るのかが注目されます。





炭酸ランタン


参考:炭酸ランタン 


競合関係


 今回、6社14品目(顆粒:10品目/OD錠:4品目)が薬価収載されました。今年の2月に10社26品目(顆粒:16品目/OD錠:10品目)が承認されていましたが、日本ジェネリック(顆粒/OD)、共創未来ファーマ(顆粒)、日新製薬(顆粒)、扶桑薬品(OD)、コーアバイオテックベイ(屋号:NP)(OD)が薬価収載を見送り、競合関係は以下のような状況です。

















薬価収の載見送り


 薬価収載が見送られたのは、炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「JG」、炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「共創未来」、炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「日新」、炭酸ランタンOD錠250mg/500mg「フソー」、炭酸ランタンOD錠250mg/500mg「NP」、炭酸ランタンOD錠250mg/500mg「JG」です。
 各社とも薬価収載を見送った理由を明らかにしていませんが、シャイアーの特許3224544、バイエルの特許6093829、東和薬品の特許6225270との関連が疑われます


注目ポイント①~沢井製薬~


 薬価収載された6社14品目の中で、まず特許的に注目したいのが、沢井製薬の炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「サワイ」です。理由は、沢井製薬はホスレノールを開発したシャイアーが保有する炭酸ランタン3~6水和物に関する特許3224544に対して無効審判(2016-800111)を請求しているからです。

 沢井製薬が無効審判を請求している特許3224544の内容は、
”【請求項1】
高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物であって、以下の式:La2(CO3)3・xH2O{式中、xは、3~6の値をもつ。}により表される炭酸ランタンを、医薬として許容される希釈剤又は担体と混合されて又は会合されて含む前記組成物。”
です。

 一方、公開されている添付文書から、沢井製薬は先発であるホスレノールと同様に炭酸ランタン4水和物を使用していますので、沢井製薬の炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「サワイ」は特許3224544との関連が強く疑われます

 また、特許3224544の無効審判の状況ですが、特許庁は、2017年8月に沢井製薬の請求を認めず、特許を維持する審決を下しており、現在、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟が係属しています(出訴事件番号:平29行ケ10171)

 そうすると、沢井製薬の炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「サワイ」は、特許3224544の範囲に含まれている虞があり、しかも特許は有効に維持されていますから、シャイアー/バイエルは沢井製薬に対し、特許権侵害訴訟の提起/仮処分命令の申立てを行うのではないでしょうか?
 今後、沢井製薬とシャイアー/バイエルの双方が、どのようなアクションを取るのかが注目されます。



注目ポイント②~東和薬品~


 次に特許的に注目したいのが、東和薬品の炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「トーワ」です。理由は、東和薬品が炭酸ランタン8水和物の粒子径に関する特許6225270を保有してからです。

 東和薬品の特許6225270の内容は、
”【請求項1】
90%積算径(D90)が70μm以下である、La2(CO3)3・xH2O(式中、xは7~9の間の数字を示す。)で表される炭酸ランタン水和物からなる、高リン血症を治療するための医薬(ただし、懸濁剤を除く)。”
です。

 一方、公開されている添付文書から、東和薬品/扶桑薬品/日本ケミファ/陽進堂/コーアイセイは炭酸ランタン8水和物を使用していますので、扶桑薬品/日本ケミファ/陽進堂/コーアイセイの製品は特許6225270との関連が疑われます。つまり、シャイアーの特許3224544を回避するために先発が使用している炭酸ランタン4水和物と異なる8水和物を使用すると、東和薬品の特許6225270の範囲に含まれリスクが生じてしまうわけです。

 実際に、東和薬品は日刊薬業に謹告を発出しており、これに対抗するかのように、東和の特許6225270に対して異議申立(2018-700357)が行われています。

 もしも扶桑薬品/日本ケミファ/陽進堂/コーアイセイ製品が、東和薬品の特許6225270の範囲に含まれている場合、東和薬品は同じジェネリックメーカに対し、どういったアクションを取るのでしょうか?
 もし特許権侵害訴訟の提起/仮処分命令の申立てを行った場合、プラバスタチン事件以来のジェネリック vs ジェネリックの特許係争となります。
 今後、東和薬品のアクションが注目されます。



注目ポイント③~OD錠~


 最後に特許的に注目したいのが、コーアイセイ/日本ケミファの炭酸ランタンOD錠250mg/500mg「イセイ」/炭酸ランタンOD錠250mg/500mg「ケミファ」です。理由は、コーアイセイがバイエルの保有するOD錠に関する特許6093829に対して無効審判(2017-800104)を請求しているからです。

 特許6093829の内容は、
”【請求項1】
唾液又は少量の水により、口腔内で崩壊させて経口投与することを特徴とする、崩壊剤及び医薬組成物中の含有率が70~90質量%で炭酸ランタン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物。”
です。

 一方、添付文書から計算されるコーアイセイ/日本ケミファの炭酸ランタンOD錠の炭酸ランタンの含有率は約86%ですので、コーアイセイ/日本ケミファの炭酸ランタンOD錠は、特許6093829との関連が強く疑われます

 また、特許6093829の無効審判の状況ですが、4月に口頭審理が行われ、現在も特許庁に係属しています。

 そうすると、コーアイセイ/日本ケミファの炭酸ランタンOD錠は特許6093829の範囲に含まれている虞があります。また、現在、無効審判が係属中ですが、少なくとも今のところ特許は有効なままですから、バイエルはコーアイセイ/日本ケミファに対し、特許権侵害訴訟の提起/仮処分命令の申立てを行う虞があるのではないでしょうか?
 今後、コーアイセイ/日本ケミファとバイエルの双方が、どのようなアクションを取るのかが注目されます。







競合関係


 今回、10社11品目(カプセル:8品目/OD錠:2品目/ODフィルム:1品目)が薬価収載されました。今年の2月に11社12品目(カプセル:9品目/OD錠:2品目/ODフィルム:1品目)が承認されていましたが、日新製薬(カプセル)が薬価収載を見送り、競合関係は以下のような状況です。



















薬価収の載見送り


 薬価収載が見送られたのは、ナルフラフィン塩酸塩カプセル2.5μg[日新」ですが、薬価収載を見送った理由をは明らかにされていません。


注目ポイント~OD錠/ODフィルム~


 薬価収載された10社11品目(カプセル:8品目/OD錠:2品目/ODフィルム:1品目)中、特許の観点から注目したいのが、沢井製薬/扶桑薬品のOD錠とニプロのODフィルムです。 理由は、2018年2月承認予想~注目品目:ナルフラフィン~でも述べた通り、“延長された特許権の効力範囲”という論点があるからです。

 ナルフラフィンの基本特許は以下の通りです。

効能・効果再審査期間特許2525552
-物質
特許3531170
-用途
軟カプセル
血液透析患者におけるそう痒症1/20/20171/22/201811/21/2017
慢性肝疾患患者におけるそう痒症12/25/20181/22/201311/21/2022
腹膜透析患者におけるそう痒症の改善1/20/20171/22/201311/21/2022
OD錠
血液透析患者におけるそう痒症1/20/20171/22/20182022/11/21
(審査中)
慢性肝疾患患者におけるそう痒症12/25/20181/22/20132022/11/21
(審査中)
腹膜透析患者におけるそう痒症の改善1/20/20171/22/20132022/11/21
(審査中)

 2017年3月に承認されたレミッチOD錠に基づき、特許3531170に対する新たな延長登録出願されていますので、軟カプセルとOD錠とでは特許満了日が異なるという状況が発生する可能性があります。

 延長登録出願(特願2017-700154)は、3月に拒絶査定を受けていますので、今後、拒絶査定不服審判の請求がされると予想されます。
 特許権者は、今回の延長登録出願で5年の延長を求めていますが、通常、OD錠は剤形追加として製造販売承認申請され、求められる試験は、生物学的同等性試験と安定性試験ですから、5年の延長期間というのはいささか長いのでは?という印象です。J-Plat-Pat上で公開されている出願人と審査官と面談記録には、「審査基準に記載野の試験の判断について、双方の意見を述べた」と記載されていますので、おそらく生物学的同等性試験以外の試験期間(例えば、安定性試験やカプセル剤の際の臨床試験の期間)を含めて5年の延長を求めていると推測されます。

 ただ、特許法上、延長登録出願が係属している限り、特許は延長されたものと見なされますから、現状、特許3531170は2021年11月まで延長されていることになります。

 一方、特許3531170の延長された特許権の効力の範囲は依然として不明確で、 
  • 延長された特許3531170の効力が、沢井製薬/扶桑薬品のナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5μg「サワイ」/ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5μg「フソー」に及ぶのか? 
  • 延長された特許3531170の効力が、ニプロのナルフラフィン塩酸塩ODフィルム2.5μg「ニプロ」に及ぶのか? 
という点が不明確です。 

 このような前例はなく、延長の効力について白黒つけるには、裁判所の判断が必要です。特許権者である東レとしては、沢井製薬/扶桑薬品/ニプロに対し、特許権侵害訴訟の提起/仮処分命令の申立てを行うという手段もあり得るのではないででしょうか?
 先に延長登録を確定させる必要があるのであれば、5年の延長期間を実際に生物学的同等性試験から承認日までの期間まで短くする補正をし、延長登録した上で、権利行使に踏み切るという手段もあるのではないでしょうか?

 延長された特許権の効力の範囲は依然として不明確であり、判例の蓄積が待たれています特許権者である東レが延長された特許権の効力に基づき、権利行使に踏み切った場合、とても貴重な判例になるはずです。
 今後、東レと沢井製薬/扶桑薬品/ニプロの双方が、どのようなアクションを取るのかが注目されます。



最後に


 今回、沢井製薬が薬価収載した製品には特許係争の虞があるものが3製品も含まれています。一度に3製品というのは過去にない多さです。しかも、以前、沢井製薬が単独で参入したラロキシフェンと異なり、炭酸ランタンとイルアミクスでは、特許庁で特許を無効とする審決を得られていないにもかかわらず薬価収載に踏み切り、更に、延長された特許権の効力という不確定な領域に果敢に挑んでいます。この沢井製薬の攻めの姿勢にはとても驚かされました。
 イルアミクス、炭酸ランタンとナルフラフィンOD錠の今後の動向に注目していきたいと思います。