2018年12月18日火曜日

【謹告】ラベプラゾールナトリウムの用法・用量に関する特許権について

 12月17日の日刊薬業に「【謹告】ラベプラゾールナトリウムの用法・用量に関する特許権について」が掲載されました。
 「【謹告】ラベプラゾールナトリウムの用法・用量に関する特許権について」によると、エーザイ株式会社は、パリエット®錠5mg/10mgのプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎(プロトンポンプ阻害剤の1日1回投与による従来の治療で効果不十分な逆流性食道炎)に対する維持療法に関する用法・用量(1回10mg 1日2回投与)について、特許6283440を保有しているそうです。



特許6283440の内容


 J-Plat-Patで確認したところ、特許6283440の主なクレームは以下のようなものでした。

"【請求項1】
  ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤を有効成分とし、維持療法を行う前の治療により治癒したプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者に対する維持療法のために、プロトンポンプ阻害剤抵抗性ではない逆流性食道炎患者に対する治療期の常用量のベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤を1日2回、4週間以上投与され、
  前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性ではない逆流性食道炎患者に対する治療期の常用量が10mgであり、
  前記ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤が、ラベプラゾール、ラベプラゾールのプロドラッグ、又はそれらの薬学上許容される塩若しくは溶媒和物であることを特徴とする、逆流性食道炎の再発抑制剤。"



パリエットパリエット®錠5mg/10mgの用法・用量


逆流性食道炎
<治療>
逆流性食道炎の治療においては、通常、成人にはラベプラゾールナトリウムとして 1 回10mgを 1 日 1 回経口投与するが、病状により 1 回20mgを 1 日 1 回経口投与することができる。なお、通常、 8 週間までの投与とする。また、プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な場合、 1 回10mg又は 1 回20mgを 1 日 2 回、さらに 8 週間経口投与することができる。ただし、 1 回20mg 1 日 2 回投与は重度の粘膜傷害を有する場合に限る。
<維持療法>
再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法においては、通常、成人にはラベプラゾールナトリウムとして 1 回10mgを 1 日 1 回経口投与する。また、プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法においては、 1 回10mgを1 日 2 回経口投与することができる。

 今回の謹告で指摘されているのは、2016年10月に申請/2017年9月に承認された下線部分の用法・用量です。



特許6283440とパリエット®錠5mg/10mgとの関係


構成要件の分節
 まず特許6283440の請求項1を、構成要件ごとに分節してみます。

構成要件
Aベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤を有効成分とし、
B維持療法を行う前の治療により治癒したプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者に対する維持療法のために、
Cプロトンポンプ阻害剤抵抗性ではない逆流性食道炎患者に対する治療期の常用量のベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤を1日2回、4週間以上投与され、
D前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性ではない逆流性食道炎患者に対する治療期の常用量が10mgであり、
E前記ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤が、ラベプラゾール、ラベプラゾールのプロドラッグ、又はそれらの薬学上許容される塩若しくは溶媒和物であることを特徴とする、
F逆流性食道炎の再発抑制剤。


構成要件とパリエット®錠5mg/10mgの対比
 次に各構成要件とパリエットパリエット®錠5mg/10mgとを対比してみます。

構成要件A
 パリエット®錠5mg/10mgの有効成分ラベプラゾールは、ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤に該当するため、パリエット®錠5mg/10mgは構成要件Aを充足すると考えられます。

構成要件B
 パリエット®錠5mg/10mgに流性食道塩の維持療法の用法・用量が追加された時の審査報告書によると、プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎の患者を被験者として、治療期には、10mgを1日2回又は20mgを1日2回、8週間投与し、維持療法期には、治療期で治癒が確認された被験者を対象とし、10mgを1日1回、52週間投与郡と1日2回、52週間投与郡とを比較する臨床試験が実施されています。
 この臨床試験の結果、10mg1日2回群の方が、10mg1日1回投与群に比べて再発率が低いことが示されたため、維持療法の用法・用量が承認されています。
 この臨床試験を考慮すると、パリエット®錠5mg/10mgは、いったん治癒したプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者に対する維持療法で投与されることがあり、パリエット®錠5mg/10mgは構成要件Bを充足すると思われます。

構成要件C
 前述の臨床試験を考慮すると、パリエット®錠5mg/10mgは、10mg1日2回、4週間以上投与されることがあり、パリエット®錠5mg/10mgは構成要件Cを充足すると思われます。

構成要件D
 添付文書によると、逆流性食道炎の治療における用法・用量は、ラベプラゾールナトリウムとして 1 回10mgを 1 日 1 回経口投与であるため、パリエット®錠5mg/10mgは構成要件Dを充足すると考えられます。

構成要件E
 ラベプラゾールはナトリウム塩として配合されているため、パリエット®錠5mg/10mgは構成要件Eを充足すると考えられます。

構成要件F
 前述の臨床試験を考慮すると、パリエット®錠5mg/10mgの投与により、逆流性食道炎の再発が抑制されているため、パリエット®錠5mg/10mgは構成要件Fを充足すると思われます。

 以上より、特許6283440は、パリエット®錠5mg/10mgの逆流性食道塩の維持療法の用法・用量を保護していると思われます。



ジェネリックの状況

 
 PMDAのHPで検索した結果、以下のジェネリックがヒットし、いずれも謹告で指摘された流性食道塩の維持療法の用法・用量を取得していました。

販売名製造販売業者等
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「NPI」製造販売元/日本薬品工業株式会社,販売提携/ジャパンフューチャー株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「科研」発売元/ 科研製薬株式会社,製造販売元/ ダイト株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「ケミファ」製造販売元/日本ケミファ株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「ケミファ」販売元/日本薬品工業株式会社,製造販売元/日本ケミファ株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「サンド」製造販売/サンド株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「ゼリア」製造販売元/ゼリア新薬工業株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「タイヨー」販売/武田薬品工業株式会社,発売元/武田テバファーマ株式会社,製造販売元/大興製薬株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「日医工」製造販売元/日医工株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「FFP」販売元/富士フイルムファーマ株式会社,製造販売元/シオノケミカル株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「NP」製造販売/ニプロ株式会社
ラベプラゾールナトリウム錠10mg「TCK」製造販売元/辰巳化学株式会社
ラベプラゾールNa塩錠10mg「オーハラ」製造販売元/大原薬品工業株式会社
ラベプラゾールNa塩錠10mg「オーハラ」製造販売元/大原薬品工業株式会社,販売元/共創未来ファーマ株式会社
ラベプラゾールNa塩錠10mg「オーハラ」販売/株式会社 エッセンシャルファーマ,製造販売元/大原薬品工業株式会社
ラベプラゾールNa塩錠10mg「オーハラ」製造販売元/大原薬品工業株式会社,販売元/第一三共エスファ株式会社,販売提携/第一三共株式会社
ラベプラゾールNa塩錠10mg「明治」製造販売元/Meiji Seika ファルマ株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「アメル」製造販売元/共和薬品工業株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「杏林」販売元/杏林製薬株式会社,製造販売元/キョーリンリメディオ株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「サワイ」製造販売元/沢井製薬株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「トーワ」製造販売元/東和薬品株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「日新」製造販売元/日新製薬株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「ファイザー」製造販売/ファイザー株式会社,提携/マイラン製薬株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「AA」製造販売元/あすか製薬株式会社,販売/武田薬品工業株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「BMD」製造販売元/株式会社ビオメディクス
ラベプラゾールNa錠10mg「JG」製造販売元/日本ジェネリック株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「TYK」販売/武田薬品工業株式会社,発売元/武田テバファーマ株式会社,製造販売元/武田テバ薬品株式会社
ラベプラゾールNa錠10mg「YD」製造販売元/株式会社 陽進堂

 また、各ジェネリックは以下のような関係にありました。



























今後の展開

 
 各ジェネリックともパリエット®錠5mg/10mgと同様に逆流性食道塩の維持療法の用法・用量を取得しています。特許6283440は、パリエット®錠5mg/10mgの逆流性食道塩の維持療法の用法・用量を保護していると思われため、各ジェネリックと特許6283440の関連性が強く疑われます。
 今回、特許権者は謹告というアクションを起こしました。次は各ジェネリックに対し、警告や権利行使といったアクションを起こす可能性があります。反対にジェネリック側は、特許6283440に対する無効審判を請求する可能性も考えられます。
 今後の両者のアクションが注目されます。

2018年12月14日金曜日

2018年8月承認品目~ゲフィチニブ~

 今回は、2018年8月に承認されたゲフィチニブについて紹介したいと思います。


ゲフィチニブの製品情報


有効成分
一般名:ゲフィチニブ
効能・効果
EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌
剤形・規格
イレッサ錠250 (2002年8月薬価収載)
製造販売元
アストラゼネカ株式会社



基本特許


効能・効果再審査期間特許3040486
-物質
EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌2010/07/042018/08/24



オーソライズド・ジェネリック(AG)が承認された理由


 再審査期間が2010年7月4日に終了し、物質特許(特許3040486)が2018年8月24日に満了したため、通常のジェネリックは2018年2月申請~2019年2月承認と考えられます。
 一方、第一三共エスファのゲフィチニブ錠250mg「DSEP」は、AGであるため、通常のジェネリックよりも早い2018年8月に承認されたと考えられます。



ゲフィチニブとEGFR遺伝子変異検査


 ところで、イレッサ錠の“効能・効果に関連する使用上の注意”の欄には、“EGFR遺伝子変異検査を実施すること”と記載されています。また、ゲフィチニブの非小細胞肺癌患者への適応を判定するために用いられる診断薬として、コバス EGFR 変異検出キット(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)therascreen EGFR 変異検出キット RGQ 「キアゲン」(株式会社キアゲン)が承認されています。



EGFR遺伝子変異検査と特許


 そこで、EGFR遺伝子変異検査に使用される診断薬に関連する特許がないか調べてみたところ、特許4350148(満了日:2025/03/31)とそのファミリー(特許4468475、特許5449943、特許5688399、特開2015-023865、特開2017-074048)が見つかり、特許4350148の主なクレームを以下の通りでした。

”【請求項1】
  以下の工程を含む、非小細胞肺癌と診断された個体におけるゲフィチニブまたはエルロチニブによる治療の薬理有効性の可能性の増大を決定するための方法。
  個体の非小細胞肺癌腫瘍サンプルからDNAを得る工程;及び該DNA中の上皮細胞成長因子受容体(EGFR)遺伝子のエキソン19または21において、少なくとも1つのヌクレオチド相違の有無を検出する工程であって、
a)少なくとも配列番号:512の747位、748位および749位のアミノ酸ロイシン、アルギニン、及びグルタミン酸の欠損を含むアミノ酸変異をもたらす、コドン746~753内の欠損からなるEGFR遺伝子のエキソン19内のインフレーム欠損、
b)配列番号:512の858位におけるロイシンからアルギニンへの置換(L858R)からなるアミノ酸変異をもたらす、エキソン21内の置換、
から選択された少なくとも一つのヌクレオチド相違の存在は、個体におけるゲフィチニブまたはエルロチニブによる治療の薬理有効性の可能性が増大することを示す工程”

 EGFR遺伝子変異検査に使用される診断薬は、EGFR遺伝子のエクソン18,19,20 及び 21 中の特定の変異を検出することから、特許4350148とそのファミリーは、診断薬を保護していると推測されます。



EGFR遺伝子変異検査の特許とジェネリック


 特許4350148(満了日:2025/03/31)とそのファミリーの主なクレームは、“ゲフィチニブに対する応答性を決定する方法”でした。”方法”の特許であるためEGFR遺伝子変異検査に使用される診断薬は保護しているものの、イレッサ錠自体は保護しておらず、特許4350148とそのファミリーでジェネリックの参入を阻むことはできないと考えられます。
 ここで、一つ考えてみたい思います。もし特許4350148とそのファミリーが、以下の様なクレームを含んでいたら、結果はどうだったでしょうか?

“非小細胞肺癌患についてヒトを治療することに用いるための、ゲフィチニブ、またはその医薬的に許容可能な塩を含んでなる医薬組成物であって、前記医薬組成物は、前記ヒトが、以下の工程を含む方法によりEGFR遺伝子変異を有すると同定された後、前記ヒトに投与される、医薬組成物。
 個体の非小細胞肺癌腫瘍サンプルからDNAを得る工程;及び該DNA中の上皮細胞成長因子受容体(EGFR)遺伝子のエキソン19または21において、少なくとも1つのヌクレオチド相違の有無を検出する工程であって、
 a)少なくとも配列番号:512の747位、748位および749位のアミノ酸ロイシン、アルギニン、及びグルタミン酸の欠損を含むアミノ酸変異をもたらす、コドン746~753内の欠損からなるEGFR遺伝子のエキソン19内のインフレーム欠損、
 b)配列番号:512の858位におけるロイシンからアルギニンへの置換(L858R)からなるアミノ酸変異をもたらす、エキソン21内の置換、
から選択された少なくとも一つのヌクレオチド相違の存在は、個体におけるゲフィチニブまたはエルロチニブによる治療の薬理有効性の可能性が増大することを示す工程。”

 このクレームは、EGFR遺伝子変異を有すると同定された後に投与されることを特徴とする”医薬組成物”の特許ですから、イレッサ錠を保護することができ、2025年12月までジェネリックの参入を妨げることができます。イレッサ錠の市場規模は、100億前後ですので、もし製品のライフサイクルを7年間延ばすことができたなら、そのインパクトは大きかったのではないでしょうか。


 次回はシロドシンについて分析してみたいと思います。