2019年8月26日月曜日

リリカ®(プレガバリン)

 RISFAXミクスonlineにリリカ®(プレガバリン)に関する記事が掲載されていましたので、今回は、リリカ®(プレガバリン)について取り上げてみたいと思います。


リリカ®の製品情報


有効成分
一般名:プレガバリン
現在の効能・効果
神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛
効能・効果の変遷
2010年4月:「帯状疱疹後神経痛」
2010年10月:「帯状疱疹後神経痛」から「末梢性神経障害性疼痛」へ拡大
2012年6月:「線維筋痛症に伴う疼痛」追加
2013年2月:「末梢性神経障害性疼痛」から「神経障害性疼痛」へ拡大
剤形・規格
リリカ®カプセル25mg(2010年6月薬価収載)
リリカ®カプセル75mg(2010年6月薬価収載)
リリカ®カプセル150mg(2010年6月薬価収載)
リリカ®OD錠25mg(2017年5月薬価収載)
リリカ® OD錠75mg(2017年5月薬価収載)
リリカ® OD錠150mg(2017年5月薬価収載)
製造販売元
製造販売/ファイザー株式会社
販売提携/エーザイ株式会社


リリカ®(プレガバリン)の基本特許


効能・効果
再審査期間
特許3856816
-物質特許
特許3693258
-用途特許
原満了日:2013/5/18原満了日:2017/7/16
帯状疱疹後神経痛2018/04/152016/12/122022/04/30
末梢性神経障害性疼痛2018/04/152017/06/222022/07/16
線維筋痛症に伴う疼痛2018/04/152017/10/202022/07/16
神経障害性疼痛2018/04/152013/05/182022/07/16
  
 特許3856816は、プレガバリンの物質特許で、リリカ®の有効成分を保護しています。また、特許3693258は、プレガバリンの鎮痛剤としての用途に関する特許で、リリカ®の効能・効果を保護しています。
 再審査期間が2018年4月に終了し、物質特許は2016年12月に満了していますが、用途特許が2020年7月まで存続していますので、通常、ジェネリックは、2022年8月に承認され、12月に薬価収載されると考えられます。


無効審判


 現在、用途特許(特許3693258)に対して無効審判(審判番号:2017-800003)が請求されています。無効審判を請求したのは沢井製薬でしたが、その後、フェルゼンファーマ、 辰巳化学、Meファルマ、東和薬品、日本ジェネリック、小林化工、共和薬品工業、ニプロ、日医工、ダイト、大原薬品、テバ、日本ケミファ、サンドおよび日新製薬の15社が参加し、現在では合計16社で無効審判が行われています。
 事件の経過ですが、「2017年1月:無効審判請求⇒2017年11月:口頭審理⇒2019年3月:審決の予告⇒2019年7月訂正請求書・上申書」という経過で、未だ審決には至っていません


無効審判の狙い


 リリカ®の有効成分を保護する物質特許(特許3856816)は、既に満了していますが、リリカ®の効能・効果を保護する用途特許(特許3693258)は、2020年まで存続していますので、用途特許が満了した後の2022年8月までジェネリックは承認されません。
 そこで、沢井製薬は、無効審判により用途特許を無効とすることで、再審査期間終了後の2018年8月申請、2019年8月承認を狙っていたと思われます。
 沢井製薬の請求した無効審判に参加している15社も沢井製薬と同じく2019年8月承認を狙っていたと思われます。
 しかし、未だに特許庁の審決がされておらず、ジェネリックが2019年8月に承認されることはありませんでした


審決の予告


 特許庁は、今年の3月に審決の予告をしています。無効審判において、その特許の全部または一部が無効であると判断した場合、特許庁は、審決の予告といのをし、特許権者には内容の訂正の機会が与えられます。
 3月の審決の予告の中で、特許庁は、「炎症性疼痛と術後疼痛以外の痛みについて、実施可能要件とサポート要件に違反しているため、特許は無効」という判断をしています。
 特許を取得するには、いくつかクリアーしなければならない要件があります。新規性/進歩性は有名な要件ですので、耳にしたことの在る方も多いかと思いますが、その他にも出願書類(明細書)の記載に関する要件というのもあります。その典型が、前述の実施可能要件とサポート要件です。
 特許制度には、優れた発明を公開し、更なる技術発展を促すという側面があります。そのため、明細書を見たその技術分野の人が、その発明を実施できる程度に内容を記載しなければならないとされています。これを実施可能要件と言います。
 また、明細書に記載されていないような発明に対して特許権を与えるわけにはいきませんので、その発明は、明細書に記載されたものでなければなりません。これをサポート要件と言います。
 つまり、3月の審決の予告では、「炎症性疼痛と術後疼痛以外の痛みについて、プレガバリンの鎮痛剤としての効果」が、明細書に十分に記載されていないと判断されたわけです。


今後の展開


 審決の予告がされた段階では、ジェネリックが承認されませんでしたので、ジェネリックが承認されるためには、①訂正請求により特許がリリカ®の効能・効果を保護しなくなる、または②特許は無効との審決がされる必要があると考えられます。


 


























 


 






 3月の審決の予告では、「炎症性疼痛」と「術後疼痛」は、実施可能要件とサポート要件を満たしていると判断していますので、「痛み」の種類を「炎症性疼痛」と「術後疼痛」に限定する訂正をすれば、無効理由を解消し、特許を維持することができます。
 しかし、それではリリカ®の効能・効果である「神経障害性疼痛」と「線維筋痛症に伴う疼痛」をカバーできなくなり、結果として、ジェネリックの参入を許すことになってしまいますので(図①)、特許権者がこのような訂正をするとは考えづらく、リリカ®の効能・効果をカバーするような訂正をしていると考えられます。

 リリカ®の効能・効果をカバーするような訂正がされたとしても、実施可能要件・サポート要件を満たしていなければ、特許は無効との審決がされ、ジェネリックが承認されると考えられます(図②)。この場合、これまでの審判の進行状況を踏まえると、ジェネリックは、早ければ、2020年2月に、遅くとも、2020年8月に承認されると思われます。

 リリカ®の効能・効果をカバーするような訂正がされ、かつ、実施可能要件・サポート要件を満たしていた場合(図③)、その後の展開が少し複雑になります。
 まず知的財産高等裁判所(知財高裁)で審決の妥当性が争われることになりますが、知財高裁が審決を維持した場合(図④)、特許が満了する2022年8月までジェネリックは承認されません
 知財高裁が審決を取り消した場合(図⑤)、特許庁に戻って再審理され、改めて特許は無効という審決がされた後、ジェネリックが承認されことになると考えられます。こうなると知財高裁の審理と特許庁での再審理の期間分だけ、ジェネリックの承認がずれ込むため、結局、ジェネリックが承認されるのは、2022年に入ってからになるでしょう。

 特許権者がどのような訂正をしているか、および、その訂正の内容で特許庁がどのような審決をするかで、いつジェネリックが承認されるかが大きく変わってきます
 審決予告の後、特許権者に特許の内容を訂正する機会が与えられ、実際、7月に訂正請求書が提出されています。残念ながら、J-Plat-Pat上では訂正請求書の内容が確認できないため、どのような訂正がされたか不明です。ひとまず審決が出るのを待ちたいと思います。







0 件のコメント:

コメントを投稿