2019年9月7日土曜日

オロパタジン塩酸塩点眼液(パタノール®点眼液0.1%)

 パタノール®点眼液0.1%を保護する(していた)特許3068858に関する無効審判事件において、8月27日に最高裁判決がされました(平成30年(行ヒ)第69号)。判決の内容については、既に他の先生方が解説・コメント等されていますので、ここではパテントリンケージに注目し、この事件を取り上げてみたいと思います。


パタノール®点眼液の製品情報


有効成分
一般名:オロパタジン塩酸塩
剤形・規格
パタノール®点眼液0.1%(2006年9月薬価収載)
パタノールEX点眼液0.2%(2011年8月承認・未発売)
製造販売元
販売元/協和キリン株式会社
製造販売(輸入)/ノバルティス ファーマ株式会社



パタノール®点眼液の基本特許


効能・効果
再審査期間
特許1872737特許2081261特許3068858
用途特許物質特許用途特許
アレルギー性結膜炎2012/07/252012/02/272012/02/272021/05/03
 
 パタノール®点眼液には三つの基本特許が登録されています。
 一つ目の特許1872737の請求項1は、
❝式
 

で表わさるジベンズ〔b,e〕オキセピン誘導体又はその薬理上許容される塩を有効成分として含有する抗アレルギー剤。❞
で、オロパタジンの抗アレルギー剤としての用途を保護する特許です。

 二つ目の特許2081261の請求項1は、
❝式








〔式中、Aはヒドロキシメチル基,低級アルコキシメチル基,トリフェニルメチルオキシメチル基,低級アルカノイルオキシメチル基,低級アルカノイル基,カルボキシル基,低級アルコキシカルボニル基,トリフェニルメチルオキシカルボニル基,−CONR1 R2 (式中、R1,R2 は同一もしくは異なって水素原子又は低級アルキル基を表す),4,4−ジメチル−2−オキサゾリン−2−イル基又は−CONHOHを表し、Yは母核の2位又は3位に置換した−(CH2)m −(式中、mは1,2,3又は4を表す)又は−CHR3 −(CH2)p −(式中、R3 は低級アルキル基を表し、pは0,1,2,3又は4を表す。なお、上記各式の左側が母核に結合しているものとする。)を表し、X1 −X2 はC=N,C=CH又はCH−CH2 を表し、nは0,1,2,3又は4を表し、Zは4−メチルピペラジノ基,4−メチルホモピペラジノ基,ピペリジノ基,ピロリジノ基,チオモルホリノ基,モルホリノ基又は−NR6 R7 (式中、R6,R7 は同一もしくは異なって水素原子又は低級アルキル基を表す)を表す〕で表されるジベンズ〔b,e〕オキセピン誘導体またはその薬理上許容される塩❞
で、オロパタジンそのものを保護しています。

 三つ目の特許3068858の登録時の請求項1は、
❝アレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な眼科用組成物であって、治療的有効量の11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、組成物。❞
で、少なくとも登録時において、オロパタジンを有効成分として含むアレルギー性眼疾患を処置するための眼科用組成物を保護していた特許です。



パテントリンケージ


 パテントリンケージとは、ジェネリックの販売後に、特許侵害訴訟などにより製品の安定供給の問題が生じることのないよう、薬事当局(厚生労働省/PMDA)がジェネリックの承認にあたって、特許の有無を考慮する仕組みのことを言います。
 
 また、通知「薬食審査発第0605014号~医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて~」によれば、❝先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、「効能・効果等」という。) に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとすること❞とされています。裏を返せば、全ての効能・効果、用法・用量に特許が存在する場合、ジェネリック医薬品は承認されないと読むことができます。

 パタノール®点眼液の場合、特許3068858は、少なくとも登録時において、オロパタジンを有効成分として含むアレルギー性眼疾患を処置するための眼科用組成物を保護していましたので、オロパタジンを有効成分として含むパタノール®点眼液の効能・効果「アレルギー性結膜炎」を全て保護ししていたと考えられ、登録時の内容で特許3068858が有効に存続する限り、パテントリンケージが働き、特許満了後の2021年8月までジェネリックは承認されないと考えられます。



無効審判事件


 8月27日にされた最高裁判決は、三つ目の特許3068858に対する無効審判事件(審判番号:2011-800018)に関する判決で、これまでの経過は下表の通りです。

事件の経緯
第一次
2011年2月特許庁無効審判請求
2011年5月訂正請求
2011年12月審決(第一次)訂正認容・請求成立(無効)
2012年4月知財高裁審決取消訴訟(第一次)
2012年6月特許庁訂正審判請求
2012年7月知財高裁審決取消決定(第一次)特許庁へ差戻
第二次
2012年8月特許庁訂正請求
2013年1月審決(第二次)訂正認容・請求不成立(有効)
2013年3月知財高裁審決取消訴訟(第二次)
2014年7月審決取消判決(第二次)
2014年9月最高裁上告受理申立
2016年1月上告不受理
第三次
2016年2月特許庁訂正請求
2016年12月審決(第三次)訂正認容・請求不成立(有効)
2017年1月知財高裁審決取消訴訟(第三次)
2017年11月審決取消判決(第三次)
2017年12月最高裁上告受理申立
2019年8月最高裁判決判決破棄・知財高裁へ差戻

 2011年12月にされた最初の審決(第一次審決)では、特許庁により「特許は無効」という判断がされましたが、審決取消訴訟(第一次審決取消訴訟)が知財高裁に提起された後、訂正審判が請求されたことにより、第一次審決は取消され、特許庁で再審理されることとなりました(訂正審判により特許の内容が変更されたので、特許庁で無効審判をやり直し)。

 訂正後の内容について、特許庁で再審理された結果、2013年1月の審決(第二次審決)では、第一次審決とは反対に「特許は有効」という判断がされました。この第二次審決に対して、審決取消訴訟(第二次審決取消訴訟)が知財高裁に提起され、「特許は有効」という第二次審決を取消す判決(第二次判決)がされました。第二次判決を不服として、2014年7月に最高裁へ上告されましたが、最高裁はこの上告を受理しなかったため、2016年1月に第二次判決が確定し、特許庁で無効審判の再審理がされることとなりました。

 特許庁で再審理された結果、2016年12月の審決(第三次審決)では、またも「特許は有効」という判断がされました。この第三次審決に対して、審決取消訴訟(第三次審決取消訴訟)が知財高裁に提起され、「特許は有効」という第三審決をまたも取消す判決(第三次判決)がされました。第三次判決を不服として、2017年12月に最高裁へ上告され、第二次判決から一転、最高裁はこの上告を受理し、この8月27日に第三次判決を破棄し、事件を知財高裁へ差戻す判決をしました。

 とても複雑かつ現在も争いが続いているわけですが、現状、「訂正後の内容で特許3068858は有効」という判断がされています。

 個人名で無効審判が請求されていますが、おそらくジェネリック側が立てたダミーであり、その背後にはジェネリック企業がいると考えられます。背後にいるジェネリック企業は、特許3068858を無効にすることにより、パテントリンケージを解除し、再審査期間終了後の2012年8月にジェネリックを申請~2013年8月承認、12月薬価収載を目論むんでいたと思われます。しかし、未だパテントリンケージが解除されず、目論見が外れる結果となっています。



訂正とパテントリンケージ


 無効審判事件の経過にパテントリンケージの関係を加えると、下表のようにまとめることができます。

事件の経緯
第一次
2011年2月特許庁無効審判請求
2011年5月訂正請求
2011年12月審決(第一次)訂正認容・請求成立(無効)
2012年4月知財高裁審決取消訴訟(第一次)
2012年6月特許庁訂正審判請求
2012年7月知財高裁審決取消決定(第一次)特許庁へ差戻
第二次
2012年8月ジェネリック申請
2012年8月特許庁訂正請求
2013年1月審決(第二次)訂正認容・請求不成立(有効)
2013年3月知財高裁審決取消訴訟(第二次)
パテント・リンケージ発動
2013年8月ジェネリック承認されず
2014年7月審決取消判決(第二次)
2014年9月最高裁上告受理申立
2016年1月上告不受理
第三次
2016年2月特許庁訂正請求
2016年12月審決(第三次)訂正認容・請求不成立(有効)
2017年1月知財高裁審決取消訴訟(第三次)
2017年11月審決取消判決(第三次)
2017年12月最高裁上告受理申立
2019年2月AG承認
2019年8月最高裁判決判決破棄・知財高裁へ差戻

 更に、第一次から第三次審決までに訂正された特許3068858の請求項1の変遷を加えると以下のようになります。

事件の経緯
第一次
2011年2月特許庁無効審判請求
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な眼科用組成物であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、組成物。
2011年5月訂正請求
2011年12月審決(第一次)訂正認容・請求成立(無効)
2012年4月知財高裁審決取消訴訟(第一次)
2012年6月特許庁訂正審判請求
2012年7月知財高裁審決取消決定(第一次)特許庁へ差戻
第二次
2012年8月ジェネリック申請
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤
2012年8月特許庁訂正請求
2013年1月審決(第二次)訂正認容・請求不成立(有効)
2013年3月知財高裁審決取消訴訟(第二次)
パテント・リンケージ発動
2013年8月ジェネリック承認されず
2014年7月審決取消判決(第二次)
2014年9月最高裁上告受理申立
2016年1月上告不受理
第三次
2016年2月特許庁訂正請求
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤
2016年12月審決(第三次)訂正認容・請求不成立(有効)
2017年1月知財高裁審決取消訴訟(第三次)
2017年11月審決取消判決(第三次)
2017年12月最高裁上告受理申立
2019年2月AG承認
2019年8月最高裁判決判決破棄・知財高裁へ差戻

 請求項1を比較してみると、「特許は無効」と判断した第一次審決と「特許は有効」と判断した第二次・第三次審とでは、その内容に違いがあることがわかります。最も大きな違いは、「特許は有効」と判断した第二次・第三次審では、「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という限定がされているのに対し、「特許は無効」と判断した第一次審決では、そのような限定がされていないという点です。

 さて特許3068858は、「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という限定を加える訂正がされてものなおパタノール®点眼液を保護しているのでしょうか?

 まず「ヒト結膜肥満細胞安定化」という限定の意味を検討してみます。
第二次・三次審決では、
❝「肥満細胞安定化」とは、「肥満細胞からのオータコイド(すなわち、ヒスタミン、セロトニンなど)の放出を阻害し、ならびに標的細胞におけるヒスタミンの効果を直接阻害する」こと、又は「肥満細胞の脱顆粒の阻害」を伴うものである。
そして、本件訂正明細書に記載の実験では、各種化合物によるヒト結膜肥満細胞を安定化する作用について、ヒト結膜肥満細胞からヒスタミン放出を阻害する作用(阻害率)を比較することにより評価しているのであるから(本件訂正明細書の第8頁第21行~第9頁第7行、及び第10頁の表1)、本件訂正発明1及び2で結膜肥満細胞を「安定化」する作用とは、結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を阻害する作用を意味している❞
という認定がされています。
 第二次・三次判決でも同様の認定がされており、ヒト結膜肥満細胞安定化=ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を意味すると考えられます。
 そうすると、訂正後の特許3068858が保護するのは、オロパタジンを有効成分として含むアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤であって、ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制剤であると理解できます。

 次にパタノール®点眼液と効能・効果とその作用機序を検討してみます。
 添付文書の「薬効薬理」には、❝選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用を主作用とし、更に肥満細胞からの化学伝達物質の遊離・産生抑制作用を有する❞という作用機序が記載されています。
 パタノール®点眼液が承認された際の審査報告書には、以下の様なことが記載されています。
P12
<審査の概略>
・・・したがって、本薬は肥満細胞からの生理活性物質遊離抑制作用とヒスタミン受容体拮抗作用の2つの作用機序を有すると考えられた。
機構は、本薬の肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制濃度は、本薬のヒスタミン拮抗濃度の約1万倍の高濃度を必要とすること及びin vivoにおける抗原によるモルモット結膜における血管透過性亢進抑制も本薬の抗ヒスタミン作用で説明が可能であることから、本薬の臨床における有効性発現に関与している可能性は低いと考えられる。 しかし、点眼直後では本薬が結膜の肥満細胞に高濃度で到達する可能性が否定できず、ヒト眼部における本薬のヒスタミン遊離抑制作用が認められていること、及び類薬であるケトチフェン点眼薬の薬理作用に肥満細胞からの生理活性物質遊離抑制作用が認められていることから、本薬を点眼した時、結膜肥満細胞のヒスタミンをはじめとする生理活性物質の遊離を抑制するとの申請者の回答を了承した。❞

 これらの記載から、オロパタジンが、アレルギー性結膜炎に対する効果を発揮する作用機序には、①ヒスタミン受容体拮抗作用と②肥満細胞からの化学伝達物質(ヒスタミン・トリプターゼ・プロスタグランジン・TNFα等)の遊離・産生抑制作用の二つがあり、前者が主な機序であり、後者は副次的な機序であると理解することができます。
 ヒスタミン遊離抑制という作用機序が、アレルギー性結膜炎という効能・効果に対し、ほとんど寄与していないのならば、パタノール®点眼液が、訂正後の特許3068858の「ヒト結膜肥満細胞安定化剤=ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制剤」に該当するかどうか、とても疑問です。

 一次審決時の特許3068858の内容とパタノール®点眼液を対比すると、以下のようになります。

一次審決時パタノール®点眼液
Aヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための
B局所投与可能な眼科用組成物であって
C治療的有効量のオロパタジンまたはその薬学的に受容可能な塩を含有する
D組成物
全ての項目で一致しています。

 一方、訂正後の特許3068858の内容とパタノール®点眼液を対比すると、以下のようになります。

現在パタノール®点眼液
aヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための
b局所投与可能な、点眼剤として調製された
c眼科用ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制剤であって?
d治療的有効量のオロパタジンまたはその薬学的に受容可能な塩を含有する
eヒト結膜肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制剤?
やはり、ヒト結膜肥満細胞安定化剤という点が一致するかが疑問です。

 一次審決時の特許3068858の内容、現在の特許3068858の内容とパタノール®点眼液点眼液の関係を図示すると以下のように表せると思います。













 
 


 


 パタノール®点眼液の円は、一次審決時の特許3068858の内容の円に包含されていますが、現在の特許3068858の内容とパタノール®点眼液点眼液の円とでは、ほとんど重なりがありません

 訂正により「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という限定が加わった現在の特許3068858は、パタノール®点眼液を保護しているかには疑問があり、仮に保護しているとしても、極めて限定された範囲でしかないと考えられます。それにもかかわらず、依然としてAG以外のジェネリックは承認されておらず、パテントリンケージが解除されていない状態が続いています。



ジェネリックはいつ承認される?


 これまでの経緯を見ると、第一次・二次判決によってパテントリンケージが解除されていません。おそらく特許庁で「特許は無効」という審決がされるか、特許が満了しない限り、ジェネリックは承認されないと考えられます。
 特許庁で「特許は無効」という審決がされまでには、①知財高裁での審決取消訴訟において、審決取消判決(第四次判決)がされ、②最高裁へ上告が不受理となり、第四次判決が確定し、③特許権者に訂正の機会が与えられ、④特許庁へ戻り、無効審判が再審理されるという道のりが待っています。順調に行ったとしても、2020年8月の承認に間に合わず、ジェネリックは2021年に入ってからになり、結局、特許満了まで待つのとほとんど変わらないと思われます。



特許と効能・効果の関係


 用途特許(延長された物質特許を含む)の保護範囲と効能・効果/用法・用量(効能等)との関係は、大きく①包含ケース(一致を含む)、②部分重複ケース、③逆包含ケースの3類型に整理できます。

























 ①包含ケースでは、効能等の全てが用途特許の保護範囲に包含されています。そのため、当然にパテントリンケージが働くと考えられます。

 ②部分重複ケースでは、効能等の一部と用途特許の保護範囲とが部分的に重複しており、特許で保護される部分とそうでない部分とが存在します。②部分重複ケースでは、特許で保護されていない部分についてまでパテントリンケージが働くのか?という問題が生じます。
 パタノール®点眼液のケースでは、訂正によって、当初①包含ケースだったものが②部分重複ケースへ変わっていますが、特許で保護さていない部分についてもパテントリンケージが働きました














 一方、ハーセプチン®のバイオシミラー(トラスツズマブ)では、一部の用法・用量が特許で保護されており、②部分重複ケースに該当しましたが、特許で保護されていない部分についてはパテントリンケージが働かず、特許で保護された用法・用量を除いて(虫食いで)バイオシミラーが承認されました。
 これら二つの事例を踏まえると、②部分重複ケースでは、パテントリンケージが働くかどうかはケース・バイ・ケースと考えられます(おそらく、無効審判の有無、虫食い可否等、何らかの基準をもって判断されているのではないかと推測しますが、その基準は明らかではありません)。

 ③逆包含ケースでは、①包含ケースとは反対に用途特許保護範囲が効能等に包含されています。②部分重複ケース同様に、特許で保護されていない部分についてまでパテントリンケージが働くのか?という問題が生じますが、私が調べた限り、③逆包含ケースが顕在化した事例ありませんでした。ただ、②部分重複ケース同様に、パテントリンケージが働くかどうかはケース・バイ・ケースと考えられます。



最後に


 パテントリンケージに着目してみると、パタノール®点眼液に関する無効審判事件はとても興味深い事件です。特許権者は、当初、①包含ケースであったところ、訂正により主要な保護範囲を捨てて②部分重複ケースに移行させたことで、特許権を維持しつつ、パテントリンケージも働かせることに成功しましたわけですが、主要な保護範囲を捨てる訂正をするという決断は、中々できるものではないと思います。