デフェラシロクスの製品情報(ジャドニュ®顆粒分包)
有効成分
一般名:デフェラシロクス
効能・効果
輸血による慢性鉄過剰症(注射用鉄キレート剤治療が不適当な場合)
用法・用量
通常、デフェラシロクスとして12mg/kgを1日1回、経口投与する。なお、患者の状態により適宜増減するが、1日量は18mg/kgを超えないこと。
剤形・規格
ジャドニュ®顆粒分包90mg(2017年11月薬価収載)
ジャドニュ®顆粒分包360mg(2017年11月薬価収載)
製造販売元
製造販売元/ノバルティス ファーマ株式会社
デフェラシロクスの製品情報(エクジェイド®懸濁用錠)
有効成分
一般名:デフェラシロクス
効能・効果
輸血による慢性鉄過剰症(注射用鉄キレート剤治療が不適当な場合)
用法・用量
通常、デフェラシロクスとして20mg/kgを1日1回、水100mL以上で用時懸濁し、空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜増減するが、1日量は30mg/kgを超えないこと。
剤形・規格
エクジェイド®懸濁用錠125mg(2008年6月薬価収載)
エクジェイド®懸濁用錠500mg(2008年6月薬価収載)
製造販売元
製造販売元/ノバルティス ファーマ株式会社
デフェラシロクスの基本特許
エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき、物質特許(特許3541042)が2021年2月20日まで延長されています。一方、ジャドニュ®顆粒分包の承認に基づく延長はありません。そのため、「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ぶのか?」という疑問が生じます。
オキサリプラチン事件(平成28年(ネ)第10046号)において、延長登録された特許権の効力範囲についての考え方が示されており、ポイントは以下の通りです。
❝延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及ぶ。❞
❝政令処分で特定された「物」(医薬品)と、対象製品とで異なる部分がある場合であっても、「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないとき」には、その製品は、政令処分の対象となった物と「実質同一」なものに含まれ、延長された特許権の効力範囲に属する。❞
❝「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべき。❞
❝次の4つの場合、政令処分で特定された「物」(医薬品)と対象製品は「実質同一」なものと判断される。
- 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合
- 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき
- 政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合
- 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法,用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合❞
オキサリプラチン事件は、上記②の場合について、具体的な判断がされています。
ジャドニュ®顆粒分包の場合、エクジェイド®懸濁用錠と剤形が異なる上、用法・用量も異なるため、とても悩ましいところです。
まず1.ですが、有効成分含量と用法・用量が異なるため、1.には該当しないと思います。次に2.ですが、延長されているのが物質特許であるため、2.にも該当しないと思います。残されたのは3と4ですが、分量と用法・用量がどちらも異なるため、4にも該当しないのではないかと思います。最後の3ですが、これはとても難しく、判断に迷うところです。
オーソライズド・ジェネリック(AG)
2019年8月15日付で承認されたデフェラシロクス顆粒分包90mg/360mg「サンド」は、ノバルティスグループのサンドが承認を取得していますので、AGであると考えられます。
しかし、先発医薬品であるジャドニュ®顆粒分包が承認されてから2年足らずしかたっていません。なぜこのタイミングでAGの承認を取得したのでしょうか?
その理由は、「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ぶのか?」という点にあると考えられます。
もし「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ぶ」と判断されれば、ジャドニュ®顆粒分包のジェネリックは、延長された物質特許が2021年2月20日に満了した後の2021年8月に承認されると考えられます。一方、もし「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ばない」と判断されると、物質特許の原満了日は既に経過し、再審査期間も設定されていないため、2021年8月よりも早くジャドニュ®顆粒分包のジェネリックが承認されることになります。
もし「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ぶ」と判断されれば、ジャドニュ®顆粒分包のジェネリックは、延長された物質特許が2021年2月20日に満了した後の2021年8月に承認されると考えられます。一方、もし「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ばない」と判断されると、物質特許の原満了日は既に経過し、再審査期間も設定されていないため、2021年8月よりも早くジャドニュ®顆粒分包のジェネリックが承認されることになります。
ノバルティスは、これを危惧し、2019年8月にAGの承認を取得したのではないでしょうか。
最後に
日本の特許延長制度は、欧米と比較するととても複雑です。ベバシズマブ(アバスチン)事件最高裁判決後の審査基準の改定により、より細かな延長登録が認めれこととなった一方、延長された特許権の効力が及ぶ範囲については、未だ不明確なところが多いと感じます。
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