今回は、2022年2月に承認されたリバーロキサバンについて、「なぜこのタイミングでAGなのか?」という点に着目しながら取り上げてみたいと思います。
リバーロキサバン(イグザレルト®)
リバーロキサバンは、Bayer社で開発された経口第Xa因子阻害剤であり、イグザレルト®の名称で販売されています。効能・効果は、①非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制(成人)、②静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制(成人)および③静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制(小児)で、イグザレルト®錠10mg/15mg(2012年4月薬価収載)、イグザレルト®細粒分包10mg/15mg(2015年11月薬価収載)、イグザレルト®OD錠10mg/15mg(2020年12月薬価収載)、イグザレルトド®ライシロップ小児用51.7mg/103.4mg(2021年4月薬価収載)の4種類の剤形が存在しています。
AG
2022年2月16日にリバーロキサバン錠「バイエル」、リバーロキサバン細粒分包「バイエル」およびリバーロキサバンOD錠「バイエル」が承認されました。ミクスOnlineによれば、これらはAGであるそうです。
特許物質特許と期間延長
リバーロキサバンの物質特許(特許4143297)は、各剤形とその効能効果に応じて複数回存続期間が延長されています。
- 特願2012-700072: 3年6月28日, イグザレルト®錠15mg, 非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
- 特願2012-700073: 3年6月28日, イグザレルト®錠10mg, 非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
- 特願2015-700326: 5年, グザレルト®錠15mg, 深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制
- 特願2015-700327: 5年, イグザレルト®錠10mg, 深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制
- 特願2015-700328: 1年8月7日, イグザレルト®細粒分包15mg, 非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
- 特願2015-700329: 1年8月7日, イグザレルト®細粒分包10mg, 非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
- 特願2016-700019: 1年10月11日, イグザレルト®細粒分包15mg, 深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制
- 特願2016-700020: 1年10月11日, イグザレルト®細粒分包10mg, 深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制
- 特願2020-700574: 1年6月21日, イグザレルト®OD錠15mg, 非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制/深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制
- 特願2020-700575: 1年6月21日, イグザレルト®OD錠10mg, 非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制/深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制
これらをまとめると次の表のようになります。
延長された特許権の効力
物質特許(特許4143297)の延長期間を見ると、最初に承認されたイグザレルト®錠に基づく延長期間が2024年7月9日に(非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制)に、次に承認されたイグザレルト®細粒分包に基づく延長期間が2022年8月18日に(非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制)、そして最後に承認されたイグザレルト®OD錠に基づく延長期間がもっとも早い2022年7月2日に(非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制/深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制)満了するように見えます。そうすると、イグザレルト®OD錠のジェネリックは、早ければ2022年8月に承認され、同年12月に薬価収載されると考えられなくもありません。
しかし、延長された特許権の効力が及ぶ範囲については、必ずしも明確とは言えないところがります。具体的には、最初のイグザレルト®錠の承認に基づく延長の効力が剤形違いのジェネリックOD錠にも及ぶという可能性が考えられます。
もしジェネリックOD錠が2022年8月の承認を目指して2021年8月に申請されたていたとすると、イグザレルト®OD錠の販売開始は2021年1月ですから、そのジェネリックOD錠はイグザレルト®錠のジェネリックとして開発・申請されているはずです。
また、オキサリプラチン事件(平成28年(ネ)第10046号)では、延長登録された特許権の効力範囲について、次のような考え方が示されました。
❝延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及ぶ。❞
❝政令処分で特定された「物」(医薬品)と、対象製品とで異なる部分がある場合であっても、「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないとき」には、その製品は、政令処分の対象となった物と「実質同一」なものに含まれ、延長された特許権の効力範囲に属する。❞
❝「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべき。❞
❝次の4つの場合、政令処分で特定された「物」(医薬品)と対象製品は「実質同一」なものと判断される。
- 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合
- 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき
- 政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合
- 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法,用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合❞
特許4143297はリバーロキサバンの物質特許ですから、少なくとも①に該当すると考えられます。もし、ジェネリックOD錠が、「有効成分ではない「成分」に関して、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等している」場合、イグザレルト®錠の承認に基づく延長の効力が剤形違いのジェネリックOD錠にも及ぶと判断される可能性があるわけです。
ジェネリックの参入時期
ジェネリックの参入時期は、イグザレルト®錠の承認に基づく延長の効力が剤形違いのジェネリックOD錠に及ばない場合と及ぶ場合とで異なると考えられます。
イグザレルト®錠の承認に基づく延長の効力が剤形違いのジェネリックOD錠に及ばない場合、ジェネリックOD錠が2022年8月に承認されるというシナリオAが考えられます。
一方、イグザレルト®錠の承認に基づく延長の効力が剤形違いのジェネリックOD錠にも及ぶ場合、ジェネリックは2024年8月まで承認されないというシナリオBが考えられます。
なぜこのタイミングでAGなのか?
前述のように、延長された物質特許(特許4143297)の効力の及ぶ範囲次第では、ジェネリックOD錠が2022年8月に承認されてしまう可能性があります。Bayer社は、これを危惧し、2022年2月のタイミングでAGの承認を取得したのであろうと推測されます。また、ジェネリックが2024年8月まで承認されない可能性もありますから、ジェネリックの承認を待ってAGの発売時期を決めるという可能性もありそうです。
最後に
延長登録制度の趣旨は、処分対象医薬品の独占的実施期間を回復することです。イグザレルト®のように、ライフサイクルマネジメントの一環としてOD錠を追加したような場合、その承認を得るための試験期間は、最初の普通錠の承認を得るための試験期間よりも短くなり、おのずと延長期間も短くならざるを得ません。もし、最初の普通錠の承認に基づく物質特許の延長の効力がジェネリックOD錠には及ばないとすれば、延長制度の趣旨が没却してしまうのではないかという気がしてなりません。