2019年10月31日木曜日

2019年8月15日付医薬品承認情報~ミカファンギン~

 今回は、2019年8月15日付で承認されたミカファンギンNa点滴静注用について取り上げてみたいと思います。



ミカファンギンの製品情報


有効成分
一般名:ミカファンギンナトリウム
効能・効果
・アスペルギルス属及びカンジダ属による下記感染症
 真菌血症、呼吸器真菌症、消化管真菌症
・造血幹細胞移植患者におけるアスペルギルス症及びカンジダ症の予防
剤形・規格
ファンガード®点滴用25mg(2006年6月薬価収載)
ファンガード®点滴用50mg(2002年12月薬価収載)
ファンガード®点滴用75mg(2002年12月薬価収載)
製造販売元
製造販売/アステラス製薬株式会社



ミカファンギンの基本特許


効能・効果
再審査期間
特許2897427特許3381722特許4691866
物質特許製剤特許製剤特許
アスペルギルス属及びカンジダ属による下記感染症
真菌血症、呼吸器真菌症、消化管真菌症
2010/10/72019/4/232020/6/292020/6/29
造血幹細胞移植患者におけるアスペルギルス症及びカンジダ症の予防2011/1/252020/9/292024/8/32020/6/29

 再審査期間が2010年10月に終了し、物質特許(特許2897427)が2019年4月に満了しため、2018年8月申請~2019年8月承認となりました。
 承認されたのは、沢井製薬のミカファンギNa点滴静注用50mg「サワイ」/ミカファンギンNa点滴静注用75mg「サワイ」のみですが、ファンガード®と使用されている添加剤が異なるため(乳糖水和物とトレハロース水和物)、オーソライズド・ジェネリック(AG)ではないと考えられます。
 また、「造血幹細胞移植患者におけるアスペルギルス症及びカンジダ症の予防」については、物質特許が2020年9月まで延長されていますので、沢井製薬のミカファンギNa点滴静注用50mg「サワイ」/ミカファンギンNa点滴静注用75mg「サワイ」の効能・効果は、「アスペルギルス属及びカンジダ属による下記感染症(真菌血症、呼吸器真菌症、消化管真菌症)」のみでした。




先発企業の製剤特許


 基本特許以外にファンガード®を保護する製剤特許として、特許3381722が登録されており、2024年8月まで存続します。また、特許3381722から分割された特許4691866も登録されています。
 特許3381722の内容は、「活性成分として式(I)の環状ポリペプチド化合物(⇒ミカファンギン)またはその医薬的に許容される塩および乳糖を含有する安定化された凍結乾燥型医薬組成物」で、ジェネリックは添加剤に乳糖を使用することが制限されます。
 特許4691866の内容は、「活性成分として式(II):の環状ポリペプチド化合物(⇒ミカファンギン)またはその医薬的に許容される塩、ならびにマルトース、ショ糖および塩化ナトリウムからなる群から選択される1以上の安定化剤からなる安定化された凍結乾燥型医薬組成物」で、ジェネリックは添加剤にマルトース、ショ糖、塩化ナトリウムを使用することが制限されます。
 沢井製薬は、これらの製剤特許を回避するために、これらの特許でクレームされていないトレハロースを添加剤として使用した製剤を開発したと考えられます。実際、沢井製薬のホームページでは、「特許を回避して製剤化を実現」と謳っています。




先発企業以外の製剤特許


 ここで一つ気になることがあります。それは、沢井製薬のミカファンギNa点滴静注用「サワイ」とシャンハイ テックウェル バイオファーマシューティカルとの関係です。
 シャンハイ テックウェル バイオファーマシューティカルは特許5723030を保有し、その内容は、「a)薬学的有効量の式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩(⇒ミカファンギン)と、b)薬学的許容量の安定化剤であるトレハロースとを含み、前記安定化剤であるトレハロースと式(I)の化合物又はその塩との重量比は100:1〜1:20であり、凍結乾燥製剤であることを特徴とする、抗真菌用の薬用組成物」です。
 ミカファンギNa点滴静注用「サワイ」は、200mgのトレハロース水和物を含みますので、トレハロース:ミカファンギンの比は、4:1(50mg製剤)と2.7:1(75mg製剤)であり、ミカファンギNa点滴静注用「サワイ」と特許5723030との関連が疑われます
 ①沢井製薬の製剤はシャンハイ テックウェル バイオファーマシューティカルから製造・供給されているのか、②沢井製薬はシャンハイ テックウェル バイオファーマシューティカルから特許5723030のライセンスを受けているのか、それとも、③両社には関係はなく、係争に発展した場合、争う用意があるのか、沢井製薬とシャンハイ テックウェル バイオファーマシューティカルとの関係がとても気になります

2019年10月28日月曜日

2019年8月15日付医薬品承認情報~ブデソニド~

 今回は、2019年8月15日付で承認されたブデソニド吸入液について取り上げてみたいと思います。



ブデソニドの製品情報


有効成分
一般名:ブデソニド
効能・効果
気管支喘息
剤形・規格
パルミコート®吸入液0.25mg(2006年9月薬価収載)
パルミコート®吸入液0.5mg(2006年9月薬価収載)
製造販売元
製造販売/アストラゼネカ株式会社



ブデソニドの基本特許


効能・効果
再審査期間
特許1033476
製法特許
気管支喘息2010/7/6満了済

 日本で登録された物質特許は見当たらず、再審査期間も2010年7月に終了したため、いつでもジェネリックを出せる状況でしたが、今回が初めてのジェネリック承認となりました。
 承認されたのは、武田テバファーマのブデソニド吸入液0.25mg「武田テバ」/ブデソニド吸入液0.5mg「武田テバ」のみですが、添付文書によると、パルミコート®とは容器の形状、添加剤(クエン酸水和物と無水クエン酸)や保存期間が異なるようですので、AGではないと考えられます。
 ところで、吸入液の場合、生物学的同等性はどのように示しているのかが気になりました。過去、インタール®吸入液のジェネリックでは、動物を用いた試験を実施しているようですが、HPで公開されたブデソニド吸入液「武田テバ」の添付文書にはそのような記載が見当たりません。今後、インタビューフォーム等が公開されると思うので、生物学的同等性をどのように示しているのか確認してみたいと思います。

2019年10月24日木曜日

2019年8月15日付医薬品承認情報~ガンシクロビル~

 今回は、2019年8月15日付で承認されたガンシクロビル点滴静注用について取り上げてみたいと思います。




ガンシクロビルの製品情報


有効成分
一般名:ガンシクロビル
効能・効果
下記におけるサイトメガロウイルス感染症
・後天性免疫不全症候群
・臓器移植(造血幹細胞移植も含む)
・悪性腫瘍
剤形・規格
デノシン®点滴静注用500mg(1990年5月薬価収載(点滴静注用デノシンとして))
製造販売元
製造販売/田辺三菱製薬株式会社




ガンシクロビルの基本特許


効能・効果
再審査期間
特許1721035
物質特許
下記におけるサイトメガロウイルス感染症
・後天性免疫不全症候群
・臓器移植(造血幹細胞移植も含む)
・悪性腫瘍
2000/03/292002/05/20

 再審査期間は2002年3月に終了し、物質特許(特許1721035)も2002年5月に満了していたため、いつでもジェネリックを出せる状況でしたが、今回が初めてのジェネリック承認となりました。
 承認されたのは、マイラン製薬のガンシクロビル点滴静注用500mg「ファイザー」のみですが、デノシン®とは「性状」と「浸透圧比」が異なるため、オーソライズド・ジェネリック(AG)ではないと考えられます。
 2019年2月承認では屋号「ファイザー」の製品はありませんでしたので、2019年で唯一つの屋号「ファイザー」のジェネリックです。
 
 ところで、7月末、「ファイザー、特許切れ医薬品事業をマイランと統合する計画」というビックニュースがありました。今後、日本ではどのような事業展開になるのかが気になります。MylanのHPに掲載されているInvestor Presentationによれば、2020年中旬にディールをクローズさせる予定であり、その前に新しい社名がアナウンスされるそうです。現在、販売中の屋号「ファイザー」というジェネリックは、どうなるのでしょう。新会社へ承継され、新しい屋号に変更されるのでしょうか?この機に乗じた複数の製品の販売中止がないことを期待します。

2019年10月23日水曜日

2019年8月15日付医薬品承認情報~アプレピタント~

 今回は、2019年8月15日付で承認されたアプレピタントについて取り上げてみたいと思います。



アプレピタントの製品情報


有効成分
一般名:アプレビタント
効能・効果
抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)(遅発期を含む)
剤形・規格
イメンド®カプセル125mg(2009年12月薬価収載)
イメンド®カプセル80mg(2009年12月薬価収載)
イメンド®カプセルセット(2009年12月薬価収載)
製造販売元
製造販売/小野薬品工業株式会社




アプレピタントの基本特許


効能・効果
再審査期間
特許3245424特許4532114
物質特許製剤特許
現満了日:2014/12/13現満了日:2022/12/09
抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)(遅発期を含む)2017/10/152019/12/13
⇒年金未納で抹消!
2022/12/09

 物質特許(特許3245424)が年金未納により2016年10月に消滅し、再審査期間が2017年10月15日に終了したため、早ければ、2018年2月申請~2019年2月承認の可能性がありましたが、半年後の2019年8月承認となりました。これは、年金未納による抹消からの時間を考慮すると、物質特許が抹消されたことに気がつき、開発を早めたとしても2018年2月申請に間に合わせるのは困難であったためと考えられます。
また、沢井製薬と日本化薬の2社が承認を取得していますが、添付文書の内容から、2社の製品は共同開発であり、実質、1種類のジェネリックということになります。




製剤特許


 イメンド®カプセルとアプレピタントカプセル「サワイ」・「NK」の添加剤を比較すると、若干、異なりますが、よく似ています。

イメンドジェネリック
カプセル内容物ヒドロキシプロピルセルロース
ラウリル硫酸ナトリウム
精製白糖
結晶セルロース
ヒドロキシプロピルセルロース、
ラウリル硫酸ナトリウム、
白糖、
結晶セルロース
カプセルゼラチン
ラウリル硫酸ナトリウ ム
(三二酸化鉄)
(黄色三二酸化鉄)
酸化チタン
ゼラチン、
ラウリル硫酸ナトリウ ム、
(三二酸化鉄)
酸化チタン

 一方、イメンド®カプセルを保護する製剤特許(特許4532114)が登録されており、2022年12月まで存続します。特許4532114の内容は以下の通りです。

【請求項1】
138nm以下の有効平均粒子サイズを維持するために十分な量の少なくとも1つの表面安定化剤をその表面に吸着している化合物2−(R)−(1−(R)−(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)エトキシ)−3−(S)−(4−フルオロ)フェニル−4−(3−(5−オキソ−1H,4H−1,2,4−トリアゾロ)メチルモルホリンまたはその医薬適合性の塩を含むナノ粒子組成物であって、表面安定化剤が超低粘度ヒドロキシプロピルセルロースまたはラウリル硫酸ナトリウムである前記組成物。

 アプレピタントカプセル「サワイ」・「NK」は、特許4532114に記載されたとラウリル硫酸ナトリウムを含みます(ヒドロキシプロピルセルロースも含みますが、超低粘度かは不明)。沢井製薬と日本化薬は、添加剤の種類以外、例えば、平均粒子サイズで、特許4532114を回避しているものと思われます。




最後に

物質特許(特許3245424)が有効に存続していた場合、ジェネリックは2020年2月承認・6月薬価収載というスケジュールでした。年金未納により物質特許を失ったことにより、6ヶ月早くジェネリックの参入を許してしまったことになります。
 小野薬品工業のIR資料によると、2018年度のイメンド®とプロイメンド®の合計の売上は、106億円です。各製品の内訳は不明ですが、2020年の薬価改定を考慮すると、6ヶ月早いジェネリックの参入による影響は、それなりに大きいのではないでしょうか。

2019年10月17日木曜日

2019年8月15日付医薬品承認情報~ファスジル~

 今回は、2019年8月15日付で承認されたファスジルについて取り上げてみたいと思います。



ファスジル塩酸塩の製品情報


有効成分
一般名:ファスジル塩酸塩水和物
効能・効果
くも膜下出血術後の脳血管攣縮およびこれに伴う脳虚血症状の改善
剤形・規格
エリル®点滴静注液30mg(1995年8月薬価収載(エリル注として))
製造販売元
製造販売元/旭化成ファーマ株式会社



ファスジル塩酸塩の基本特許


基本特許

効能・効果
再審査期間
くも膜下出血術後の脳血管攣縮およびこれに伴う脳虚血症状の改善2001/06/29

 日本で登録された物質特許は見当たらず、再審査期間が2001年6月29日に終了したため、いつでもジェネリックを出せる状況ですが、今回、初めての承認となりました。
 ファスジル塩酸塩点滴静注液30mg「旭化成」は、テリボン®のAGの承認も取得している旭化成シンメッドが承認を取得していますので、AGと考えられます。

 旭化成の決算説明資料によると、2018年度主要製品の国内売上は、テリボン®:約283億円、リコモジュリン®:約118億、フリバス®:約33億、ブレディニン®:約30億、エルシトニン®:約23億、リクラスト®:約14億、ケブザラ®:約13億で、エリル®の記載はありません。そのため、エリル®の売上は、13億未満と思われます。
 先発医薬品の売上が13億程度だと、ジェネリックにとっては、それほど魅力的な市場とは思えませんし、今まで、ジェネリックが参入していないのも頷けます。何故、旭化成がこのタイミングでAGの承認を取得したのでしょうか?近々、ジェネリックが参入してくることを予見したのか、それとも他の理由があるのか、とても気になるところです。

2019年10月9日水曜日

2019年8月15日付医薬品承認情報~デフェラシロクス~

 今回は、2019年8月15日付で承認されたデフェラシロクスについて、「なぜこのタイミングでAGなのか?」という点に注目しながら取り上げてみたいと思います。



デフェラシロクスの製品情報(ジャドニュ®顆粒分包)


有効成分
一般名:デフェラシロクス
効能・効果
輸血による慢性鉄過剰症(注射用鉄キレート剤治療が不適当な場合)
用法・用量
通常、デフェラシロクスとして12mg/kgを1日1回、経口投与する。なお、患者の状態により適宜増減するが、1日量は18mg/kgを超えないこと。
剤形・規格
ジャドニュ®顆粒分包90mg(2017年11月薬価収載)
ジャドニュ®顆粒分包360mg(2017年11月薬価収載)
製造販売元
製造販売元/ノバルティス ファーマ株式会社



デフェラシロクスの製品情報(エクジェイド®懸濁用錠)


有効成分
一般名:デフェラシロクス
効能・効果
輸血による慢性鉄過剰症(注射用鉄キレート剤治療が不適当な場合)
用法・用量
通常、デフェラシロクスとして20mg/kgを1日1回、水100mL以上で用時懸濁し、空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜増減するが、1日量は30mg/kgを超えないこと。
剤形・規格
エクジェイド®懸濁用錠125mg(2008年6月薬価収載)
エクジェイド®懸濁用錠500mg(2008年6月薬価収載)
製造販売元
製造販売元/ノバルティス ファーマ株式会社



デフェラシロクスの基本特許


製品名
効能・効果
再審査期間
特許3541042
物質特許
原満了日:2017/06/24
エクジェイド懸濁用錠輸血による慢性鉄過剰症(注射用鉄キレート剤治療が不適当な場合)2016/04/152021/02/20
ジャドニュ顆粒分包輸血による慢性鉄過剰症(注射用鉄キレート剤治療が不適当な場合)-2017/6/24
or
2021/2/20

 エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき、物質特許(特許3541042)が2021年2月20日まで延長されています。一方、ジャドニュ®顆粒分包の承認に基づく延長はありません。そのため、「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ぶのか?」という疑問が生じます。

 オキサリプラチン事件(平成28年(ネ)第10046号)において、延長登録された特許権の効力範囲についての考え方が示されており、ポイントは以下の通りです。

 ❝延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及ぶ。❞ 

  ❝政令処分で特定された「物」(医薬品)と、対象製品とで異なる部分がある場合であっても、「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないとき」には、その製品は、政令処分の対象となった物と「実質同一」なものに含まれ、延長された特許権の効力範囲に属する。❞ 

 ❝「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべき。❞

 ❝次の4つの場合、政令処分で特定された「物」(医薬品)と対象製品は「実質同一」なものと判断される。 

  1. 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合 
  2. 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき 
  3. 政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合 
  4. 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法,用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合❞

 オキサリプラチン事件は、上記②の場合について、具体的な判断がされています。

 ジャドニュ®顆粒分包の場合、エクジェイド®懸濁用錠と剤形が異なる上、用法・用量も異なるため、とても悩ましいところです。
 まず1.ですが、有効成分含量と用法・用量が異なるため、1.には該当しないと思います。次に2.ですが、延長されているのが物質特許であるため、2.にも該当しないと思います。残されたのは3と4ですが、分量と用法・用量がどちらも異なるため、4にも該当しないのではないかと思います。最後の3ですが、これはとても難しく、判断に迷うところです。



オーソライズド・ジェネリック(AG)


 2019年8月15日付で承認されたデフェラシロクス顆粒分包90mg/360mg「サンド」は、ノバルティスグループのサンドが承認を取得していますので、AGであると考えられます。
 しかし、先発医薬品であるジャドニュ®顆粒分包が承認されてから2年足らずしかたっていません。なぜこのタイミングでAGの承認を取得したのでしょうか?
 その理由は、「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ぶのか?」という点にあると考えられます。
 もし「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ぶ」と判断されれば、ジャドニュ®顆粒分包のジェネリックは、延長された物質特許が2021年2月20日に満了した後の2021年8月に承認されると考えられます。一方、もし「エクジェイド®懸濁用錠の承認に基づき延長された物質特許の効力が、ジャドニュ®顆粒分包に及ばない」と判断されると、物質特許の原満了日は既に経過し、再審査期間も設定されていないため、2021年8月よりも早くジャドニュ®顆粒分包のジェネリックが承認されることになります。
 ノバルティスは、これを危惧し、2019年8月にAGの承認を取得したのではないでしょうか。




最後に


 日本の特許延長制度は、欧米と比較するととても複雑です。ベバシズマブ(アバスチン)事件最高裁判決後の審査基準の改定により、より細かな延長登録が認めれこととなった一方、延長された特許権の効力が及ぶ範囲については、未だ不明確なところが多いと感じます。

2019年9月7日土曜日

オロパタジン塩酸塩点眼液(パタノール®点眼液0.1%)

 パタノール®点眼液0.1%を保護する(していた)特許3068858に関する無効審判事件において、8月27日に最高裁判決がされました(平成30年(行ヒ)第69号)。判決の内容については、既に他の先生方が解説・コメント等されていますので、ここではパテントリンケージに注目し、この事件を取り上げてみたいと思います。


パタノール®点眼液の製品情報


有効成分
一般名:オロパタジン塩酸塩
剤形・規格
パタノール®点眼液0.1%(2006年9月薬価収載)
パタノールEX点眼液0.2%(2011年8月承認・未発売)
製造販売元
販売元/協和キリン株式会社
製造販売(輸入)/ノバルティス ファーマ株式会社



パタノール®点眼液の基本特許


効能・効果
再審査期間
特許1872737特許2081261特許3068858
用途特許物質特許用途特許
アレルギー性結膜炎2012/07/252012/02/272012/02/272021/05/03
 
 パタノール®点眼液には三つの基本特許が登録されています。
 一つ目の特許1872737の請求項1は、
❝式
 

で表わさるジベンズ〔b,e〕オキセピン誘導体又はその薬理上許容される塩を有効成分として含有する抗アレルギー剤。❞
で、オロパタジンの抗アレルギー剤としての用途を保護する特許です。

 二つ目の特許2081261の請求項1は、
❝式








〔式中、Aはヒドロキシメチル基,低級アルコキシメチル基,トリフェニルメチルオキシメチル基,低級アルカノイルオキシメチル基,低級アルカノイル基,カルボキシル基,低級アルコキシカルボニル基,トリフェニルメチルオキシカルボニル基,−CONR1 R2 (式中、R1,R2 は同一もしくは異なって水素原子又は低級アルキル基を表す),4,4−ジメチル−2−オキサゾリン−2−イル基又は−CONHOHを表し、Yは母核の2位又は3位に置換した−(CH2)m −(式中、mは1,2,3又は4を表す)又は−CHR3 −(CH2)p −(式中、R3 は低級アルキル基を表し、pは0,1,2,3又は4を表す。なお、上記各式の左側が母核に結合しているものとする。)を表し、X1 −X2 はC=N,C=CH又はCH−CH2 を表し、nは0,1,2,3又は4を表し、Zは4−メチルピペラジノ基,4−メチルホモピペラジノ基,ピペリジノ基,ピロリジノ基,チオモルホリノ基,モルホリノ基又は−NR6 R7 (式中、R6,R7 は同一もしくは異なって水素原子又は低級アルキル基を表す)を表す〕で表されるジベンズ〔b,e〕オキセピン誘導体またはその薬理上許容される塩❞
で、オロパタジンそのものを保護しています。

 三つ目の特許3068858の登録時の請求項1は、
❝アレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な眼科用組成物であって、治療的有効量の11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、組成物。❞
で、少なくとも登録時において、オロパタジンを有効成分として含むアレルギー性眼疾患を処置するための眼科用組成物を保護していた特許です。



パテントリンケージ


 パテントリンケージとは、ジェネリックの販売後に、特許侵害訴訟などにより製品の安定供給の問題が生じることのないよう、薬事当局(厚生労働省/PMDA)がジェネリックの承認にあたって、特許の有無を考慮する仕組みのことを言います。
 
 また、通知「薬食審査発第0605014号~医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて~」によれば、❝先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、「効能・効果等」という。) に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとすること❞とされています。裏を返せば、全ての効能・効果、用法・用量に特許が存在する場合、ジェネリック医薬品は承認されないと読むことができます。

 パタノール®点眼液の場合、特許3068858は、少なくとも登録時において、オロパタジンを有効成分として含むアレルギー性眼疾患を処置するための眼科用組成物を保護していましたので、オロパタジンを有効成分として含むパタノール®点眼液の効能・効果「アレルギー性結膜炎」を全て保護ししていたと考えられ、登録時の内容で特許3068858が有効に存続する限り、パテントリンケージが働き、特許満了後の2021年8月までジェネリックは承認されないと考えられます。



無効審判事件


 8月27日にされた最高裁判決は、三つ目の特許3068858に対する無効審判事件(審判番号:2011-800018)に関する判決で、これまでの経過は下表の通りです。

事件の経緯
第一次
2011年2月特許庁無効審判請求
2011年5月訂正請求
2011年12月審決(第一次)訂正認容・請求成立(無効)
2012年4月知財高裁審決取消訴訟(第一次)
2012年6月特許庁訂正審判請求
2012年7月知財高裁審決取消決定(第一次)特許庁へ差戻
第二次
2012年8月特許庁訂正請求
2013年1月審決(第二次)訂正認容・請求不成立(有効)
2013年3月知財高裁審決取消訴訟(第二次)
2014年7月審決取消判決(第二次)
2014年9月最高裁上告受理申立
2016年1月上告不受理
第三次
2016年2月特許庁訂正請求
2016年12月審決(第三次)訂正認容・請求不成立(有効)
2017年1月知財高裁審決取消訴訟(第三次)
2017年11月審決取消判決(第三次)
2017年12月最高裁上告受理申立
2019年8月最高裁判決判決破棄・知財高裁へ差戻

 2011年12月にされた最初の審決(第一次審決)では、特許庁により「特許は無効」という判断がされましたが、審決取消訴訟(第一次審決取消訴訟)が知財高裁に提起された後、訂正審判が請求されたことにより、第一次審決は取消され、特許庁で再審理されることとなりました(訂正審判により特許の内容が変更されたので、特許庁で無効審判をやり直し)。

 訂正後の内容について、特許庁で再審理された結果、2013年1月の審決(第二次審決)では、第一次審決とは反対に「特許は有効」という判断がされました。この第二次審決に対して、審決取消訴訟(第二次審決取消訴訟)が知財高裁に提起され、「特許は有効」という第二次審決を取消す判決(第二次判決)がされました。第二次判決を不服として、2014年7月に最高裁へ上告されましたが、最高裁はこの上告を受理しなかったため、2016年1月に第二次判決が確定し、特許庁で無効審判の再審理がされることとなりました。

 特許庁で再審理された結果、2016年12月の審決(第三次審決)では、またも「特許は有効」という判断がされました。この第三次審決に対して、審決取消訴訟(第三次審決取消訴訟)が知財高裁に提起され、「特許は有効」という第三審決をまたも取消す判決(第三次判決)がされました。第三次判決を不服として、2017年12月に最高裁へ上告され、第二次判決から一転、最高裁はこの上告を受理し、この8月27日に第三次判決を破棄し、事件を知財高裁へ差戻す判決をしました。

 とても複雑かつ現在も争いが続いているわけですが、現状、「訂正後の内容で特許3068858は有効」という判断がされています。

 個人名で無効審判が請求されていますが、おそらくジェネリック側が立てたダミーであり、その背後にはジェネリック企業がいると考えられます。背後にいるジェネリック企業は、特許3068858を無効にすることにより、パテントリンケージを解除し、再審査期間終了後の2012年8月にジェネリックを申請~2013年8月承認、12月薬価収載を目論むんでいたと思われます。しかし、未だパテントリンケージが解除されず、目論見が外れる結果となっています。



訂正とパテントリンケージ


 無効審判事件の経過にパテントリンケージの関係を加えると、下表のようにまとめることができます。

事件の経緯
第一次
2011年2月特許庁無効審判請求
2011年5月訂正請求
2011年12月審決(第一次)訂正認容・請求成立(無効)
2012年4月知財高裁審決取消訴訟(第一次)
2012年6月特許庁訂正審判請求
2012年7月知財高裁審決取消決定(第一次)特許庁へ差戻
第二次
2012年8月ジェネリック申請
2012年8月特許庁訂正請求
2013年1月審決(第二次)訂正認容・請求不成立(有効)
2013年3月知財高裁審決取消訴訟(第二次)
パテント・リンケージ発動
2013年8月ジェネリック承認されず
2014年7月審決取消判決(第二次)
2014年9月最高裁上告受理申立
2016年1月上告不受理
第三次
2016年2月特許庁訂正請求
2016年12月審決(第三次)訂正認容・請求不成立(有効)
2017年1月知財高裁審決取消訴訟(第三次)
2017年11月審決取消判決(第三次)
2017年12月最高裁上告受理申立
2019年2月AG承認
2019年8月最高裁判決判決破棄・知財高裁へ差戻

 更に、第一次から第三次審決までに訂正された特許3068858の請求項1の変遷を加えると以下のようになります。

事件の経緯
第一次
2011年2月特許庁無効審判請求
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な眼科用組成物であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、組成物。
2011年5月訂正請求
2011年12月審決(第一次)訂正認容・請求成立(無効)
2012年4月知財高裁審決取消訴訟(第一次)
2012年6月特許庁訂正審判請求
2012年7月知財高裁審決取消決定(第一次)特許庁へ差戻
第二次
2012年8月ジェネリック申請
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤
2012年8月特許庁訂正請求
2013年1月審決(第二次)訂正認容・請求不成立(有効)
2013年3月知財高裁審決取消訴訟(第二次)
パテント・リンケージ発動
2013年8月ジェネリック承認されず
2014年7月審決取消判決(第二次)
2014年9月最高裁上告受理申立
2016年1月上告不受理
第三次
2016年2月特許庁訂正請求
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤
2016年12月審決(第三次)訂正認容・請求不成立(有効)
2017年1月知財高裁審決取消訴訟(第三次)
2017年11月審決取消判決(第三次)
2017年12月最高裁上告受理申立
2019年2月AG承認
2019年8月最高裁判決判決破棄・知財高裁へ差戻

 請求項1を比較してみると、「特許は無効」と判断した第一次審決と「特許は有効」と判断した第二次・第三次審とでは、その内容に違いがあることがわかります。最も大きな違いは、「特許は有効」と判断した第二次・第三次審では、「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という限定がされているのに対し、「特許は無効」と判断した第一次審決では、そのような限定がされていないという点です。

 さて特許3068858は、「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という限定を加える訂正がされてものなおパタノール®点眼液を保護しているのでしょうか?

 まず「ヒト結膜肥満細胞安定化」という限定の意味を検討してみます。
第二次・三次審決では、
❝「肥満細胞安定化」とは、「肥満細胞からのオータコイド(すなわち、ヒスタミン、セロトニンなど)の放出を阻害し、ならびに標的細胞におけるヒスタミンの効果を直接阻害する」こと、又は「肥満細胞の脱顆粒の阻害」を伴うものである。
そして、本件訂正明細書に記載の実験では、各種化合物によるヒト結膜肥満細胞を安定化する作用について、ヒト結膜肥満細胞からヒスタミン放出を阻害する作用(阻害率)を比較することにより評価しているのであるから(本件訂正明細書の第8頁第21行~第9頁第7行、及び第10頁の表1)、本件訂正発明1及び2で結膜肥満細胞を「安定化」する作用とは、結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を阻害する作用を意味している❞
という認定がされています。
 第二次・三次判決でも同様の認定がされており、ヒト結膜肥満細胞安定化=ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を意味すると考えられます。
 そうすると、訂正後の特許3068858が保護するのは、オロパタジンを有効成分として含むアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤であって、ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制剤であると理解できます。

 次にパタノール®点眼液と効能・効果とその作用機序を検討してみます。
 添付文書の「薬効薬理」には、❝選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用を主作用とし、更に肥満細胞からの化学伝達物質の遊離・産生抑制作用を有する❞という作用機序が記載されています。
 パタノール®点眼液が承認された際の審査報告書には、以下の様なことが記載されています。
P12
<審査の概略>
・・・したがって、本薬は肥満細胞からの生理活性物質遊離抑制作用とヒスタミン受容体拮抗作用の2つの作用機序を有すると考えられた。
機構は、本薬の肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制濃度は、本薬のヒスタミン拮抗濃度の約1万倍の高濃度を必要とすること及びin vivoにおける抗原によるモルモット結膜における血管透過性亢進抑制も本薬の抗ヒスタミン作用で説明が可能であることから、本薬の臨床における有効性発現に関与している可能性は低いと考えられる。 しかし、点眼直後では本薬が結膜の肥満細胞に高濃度で到達する可能性が否定できず、ヒト眼部における本薬のヒスタミン遊離抑制作用が認められていること、及び類薬であるケトチフェン点眼薬の薬理作用に肥満細胞からの生理活性物質遊離抑制作用が認められていることから、本薬を点眼した時、結膜肥満細胞のヒスタミンをはじめとする生理活性物質の遊離を抑制するとの申請者の回答を了承した。❞

 これらの記載から、オロパタジンが、アレルギー性結膜炎に対する効果を発揮する作用機序には、①ヒスタミン受容体拮抗作用と②肥満細胞からの化学伝達物質(ヒスタミン・トリプターゼ・プロスタグランジン・TNFα等)の遊離・産生抑制作用の二つがあり、前者が主な機序であり、後者は副次的な機序であると理解することができます。
 ヒスタミン遊離抑制という作用機序が、アレルギー性結膜炎という効能・効果に対し、ほとんど寄与していないのならば、パタノール®点眼液が、訂正後の特許3068858の「ヒト結膜肥満細胞安定化剤=ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制剤」に該当するかどうか、とても疑問です。

 一次審決時の特許3068858の内容とパタノール®点眼液を対比すると、以下のようになります。

一次審決時パタノール®点眼液
Aヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための
B局所投与可能な眼科用組成物であって
C治療的有効量のオロパタジンまたはその薬学的に受容可能な塩を含有する
D組成物
全ての項目で一致しています。

 一方、訂正後の特許3068858の内容とパタノール®点眼液を対比すると、以下のようになります。

現在パタノール®点眼液
aヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための
b局所投与可能な、点眼剤として調製された
c眼科用ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制剤であって?
d治療的有効量のオロパタジンまたはその薬学的に受容可能な塩を含有する
eヒト結膜肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制剤?
やはり、ヒト結膜肥満細胞安定化剤という点が一致するかが疑問です。

 一次審決時の特許3068858の内容、現在の特許3068858の内容とパタノール®点眼液点眼液の関係を図示すると以下のように表せると思います。













 
 


 


 パタノール®点眼液の円は、一次審決時の特許3068858の内容の円に包含されていますが、現在の特許3068858の内容とパタノール®点眼液点眼液の円とでは、ほとんど重なりがありません

 訂正により「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という限定が加わった現在の特許3068858は、パタノール®点眼液を保護しているかには疑問があり、仮に保護しているとしても、極めて限定された範囲でしかないと考えられます。それにもかかわらず、依然としてAG以外のジェネリックは承認されておらず、パテントリンケージが解除されていない状態が続いています。



ジェネリックはいつ承認される?


 これまでの経緯を見ると、第一次・二次判決によってパテントリンケージが解除されていません。おそらく特許庁で「特許は無効」という審決がされるか、特許が満了しない限り、ジェネリックは承認されないと考えられます。
 特許庁で「特許は無効」という審決がされまでには、①知財高裁での審決取消訴訟において、審決取消判決(第四次判決)がされ、②最高裁へ上告が不受理となり、第四次判決が確定し、③特許権者に訂正の機会が与えられ、④特許庁へ戻り、無効審判が再審理されるという道のりが待っています。順調に行ったとしても、2020年8月の承認に間に合わず、ジェネリックは2021年に入ってからになり、結局、特許満了まで待つのとほとんど変わらないと思われます。



特許と効能・効果の関係


 用途特許(延長された物質特許を含む)の保護範囲と効能・効果/用法・用量(効能等)との関係は、大きく①包含ケース(一致を含む)、②部分重複ケース、③逆包含ケースの3類型に整理できます。

























 ①包含ケースでは、効能等の全てが用途特許の保護範囲に包含されています。そのため、当然にパテントリンケージが働くと考えられます。

 ②部分重複ケースでは、効能等の一部と用途特許の保護範囲とが部分的に重複しており、特許で保護される部分とそうでない部分とが存在します。②部分重複ケースでは、特許で保護されていない部分についてまでパテントリンケージが働くのか?という問題が生じます。
 パタノール®点眼液のケースでは、訂正によって、当初①包含ケースだったものが②部分重複ケースへ変わっていますが、特許で保護さていない部分についてもパテントリンケージが働きました














 一方、ハーセプチン®のバイオシミラー(トラスツズマブ)では、一部の用法・用量が特許で保護されており、②部分重複ケースに該当しましたが、特許で保護されていない部分についてはパテントリンケージが働かず、特許で保護された用法・用量を除いて(虫食いで)バイオシミラーが承認されました。
 これら二つの事例を踏まえると、②部分重複ケースでは、パテントリンケージが働くかどうかはケース・バイ・ケースと考えられます(おそらく、無効審判の有無、虫食い可否等、何らかの基準をもって判断されているのではないかと推測しますが、その基準は明らかではありません)。

 ③逆包含ケースでは、①包含ケースとは反対に用途特許保護範囲が効能等に包含されています。②部分重複ケース同様に、特許で保護されていない部分についてまでパテントリンケージが働くのか?という問題が生じますが、私が調べた限り、③逆包含ケースが顕在化した事例ありませんでした。ただ、②部分重複ケース同様に、パテントリンケージが働くかどうかはケース・バイ・ケースと考えられます。



最後に


 パテントリンケージに着目してみると、パタノール®点眼液に関する無効審判事件はとても興味深い事件です。特許権者は、当初、①包含ケースであったところ、訂正により主要な保護範囲を捨てて②部分重複ケースに移行させたことで、特許権を維持しつつ、パテントリンケージも働かせることに成功しましたわけですが、主要な保護範囲を捨てる訂正をするという決断は、中々できるものではないと思います。